内部被曝を考察するブログ

数日ほど、仕事が多忙なため、訪問できませんが、いつも皆様のご健康と、お幸せをお祈りしています。皆様にとって、毎日が笑顔で満たされたものでありますように。

セシウム内部被曝によるBandazhevskyのデータの理解

イメージ 1



ごく微量のセシウム内部被曝によって、心電図異常が起こる、というデータを、チェルノブイリ原発事故後に、Bandazhevskyという学者が、2004年のSwiss Med Weekly誌に発表しています。

原文は、以下のサイトで入手可能です。
http://radionucleide.free.fr/Stresseurs/smw-Galina_Bandazhevskaya.pdf

大変重要な論文なのですが、なかなかこのデータの背景にあるメカニズムを上手く理解するのが難しく、私も
つい最近まで、(なるべく公正な目で柔軟に理解しようと努めてきましたが、それでも)、このデータの正しさには、半信半疑だった面もありました。今の私の立場としては、個人的には、アップルペクチン云々のデータは、まだ意見保留ですが、 (否定的に見てるわけじゃないけれど、少なくともこの論文の中ではコントロールスタディではない)、 それ以外のデータ、特にtable2に関しては、価値の高い、検討に値するデータだと、現在は思っています。 冒頭の表は、この論文のtable-2のデータです。

大変わずかなセシウム内部被曝量、つまり、体重あたり、約50Bq/kgで、大変高頻度(8割以上)の子供に、心電図異常が起きてしまう、というデータです(注)。

心電図異常の具体的な内容は、この論文には詳しく述べられていませんが、著者の他の発表などから推測するに、再分極異常(QT延長症候群などに似た状態を含む)を指していると考えています。私自身は、原発事故後しばらくして、この論文を読み、自分の医学知識の理解の及ぶ範囲では、QT延長などを含んだ異常かな、と推測していたので、一応、その理解の下に、以下の解説を書かせていただきます。(注2)

わざわざ、この場を使って、(既に心ある識者によってこの論文の紹介や注意喚起が行われ続けてきた経緯のなかで)、このデータを解説しようと言う意図は、2つあります。

一つは、やはり、この論文の示唆するところのインパクトの大きさが、大変なものであるという認識です。QT延長症候群というのは、心臓の調律の安全マージンが少なくなっている状態で、最悪の場合には、突然死のリスクが高くなっている状態です。福島の子供たち、日本の若者たちに、リスクを拡大させるわけには行きませんので、微力ながら、注意喚起につとめたいとおもいます。
これから書く主張全体の結論としては、食事、特に主食の米は10Bq/kg以下を死守する、ということです。これを、数年単位の長い目で、努力を続けないといけません。(注3)

もう一つの理由は、世の中に、原発事故や放射能障害のことで、いろんな学者が、いろんな意見を述べておられると思いますが、現行の放射線理論にのっとって考えると、Bandazhevskyのこのデータに、拒否反応を起こすのではないか、と懸念しています。これから書く内容を、すべての方に同意していただくことは難しいかもしれませんが、もしも、100人に1人でも、「その他の考え方」に柔軟な理解を示していただくことができれば、福島の子供たちの、食の安全性が、より確保されていくことにつながるのではないか、と期待しています。

現行の「放射線障害理論」の考え方で計算すると、とても理解不能なデータなのですが、いくつかの仮定をおくと、十分にメカニズムとして、説明しうるデータです。

次の順番に従って、解説してまいります。


(通し番号で1−5までがメインの記事です。附記1−25(通し番号で33まで)は、多少なりとも、当理論でのセシウム内部被曝カニズムと関連性を持つ議論や、当理論を理解するための補足事項です。34以降は、番外編で当理論とはあまり関係のない議題ですが、内部被曝全般として議論すべき事項)

(特に、「他所でCsとカリウムチャネルの仮説を聞いたことあるけど、とっくに否定されているよね」と、早とちりをされてしまっておられる方は、この記事(Kチャネル嵌頓時の崩壊による影響)や、この記事(単一チャネル考察)や、この記事(附記7)から目を通していただくと、考え直して頂けるかもしれません。同じ、カリウムチャネルに焦点を当てる理論でも、当理論が取っている、特徴的な考え方の一つで、この考え方に沿った議論で考察を進めると、定量的考察が上手く行く運びとなります。)

------------------------------------------------------------------------

1.その他の疫学調査との整合性このデータは、とてもユニークなデータなので、そのほかの疫学調査と整合性を確認する作業を行いたいと思います。

2.動物実験との整合性: 実験医学的に、Bandazhevskyのデータが再現されることが重要です。もしかしたら、巷には、ある「誤解」が蔓延しているかもしれないので、議論してみたいと思います。

3a.メカニズムの説明: (現代核物理学の中のユニークな現象):放射線医学の根幹になっている物理学法則は、絶対真理、と思われがちで、したがって現行の放射線障害理論に疑問をさしはさむ余地がないと考えがちですが、現状の核物理学法則も、ある条件にかんしては、放射線がユニークな挙動を示す現象がわかっています。生体への影響にかんする考え方に、どのような新しい視点が可能なのか、議論の端緒を持ち出してみたいと思います。

3b.メカニズムの説明イオンチャネルとQT延長症候群カリウムチャネルというものに関し、解説します。カリウムチャネルの基本的事項の解説カリウムチャネルから見たときのカリウムイオンとセシウムイオンの違い生体内分子と近接時の崩壊による非線形的分子障害の可能性

3c.メカニズムの説明:(定量的考察1:単一チャネル考察):
ごく微量のセシウム内部被曝で、影響が出うることを、簡単な数式をもちいて解説します。

3d.メカニズムの説明(定量的考察2:開確率について):
前項の計算式と、生物学データのすり合わせをします。

3e.メカニズムの説明(定量的考察3:心臓の伝道路)何個の心筋細胞の異常で、心臓伝道系の異常が考えられるのか、検討します。

4.再びQT延長症候群について(制御理論的考察):QT延長症候群というものを、別角度から見てみます。なぜ、この状態がよくないのかを説明します。

5.食事中のセシウムの限度にかんする定量的考察


6.現行の線量計算を内部被曝に用いる際の問題点


7.線量計算の新しい考え方への提言と、数式の例

8.附記1(KvLQT1 vs. Kirの議論の補足)

9.附記2(メスバウアー効果の補足)

10.附記3(制御の遅れに関して)

11.附記4(その他の心電図上の所見:QRSやST部分、J波へ影響の可能性に関する補足説明)

12.附記5(体内に存在する程度の量では、放射性炭素C14による内部被曝がなぜ安全と考えられるのか。トリチウムやC14の真の危険性に関する再評価)

13.附記6(放射性ヨウ素大量投与による内部被曝が少数回までなら比較的安全である理由)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
24.附記16b(その他の症状への理論拡大の可能性に関して)その2
 
 
 
 
 
 
 
 
32.附属24.臓器別の放射性セシウムの蓄積量の違いに関する理論的説明、定量評価
 
33.附属25.ストロンチウム内部被曝は危険なのか、それほどでもないのか?当理論によるセシウム内部被曝カニズムとの比較
 
 
35.Tamplinらのホットパーティクル説の正しかった箇所、正しくなかった箇所。批判派は何を見誤ったのか。1970年代には分からなかったことなど
 
36.トロトラスト投与によるトリウム内部被曝の新たな解釈と理論的整合性
 
 
38.トリチウムの危険性再考(DNAへの影響見積もり、修復能力との正確な比較、生体濃縮の存否)
 
39.Petkau(ペトカウ)の実験の正しい解釈(原発事故後Petkauの実験を紹介するウェブサイトや各種著書をご覧になった方も多いと思いますが、一連の実験の正しさとは別に、2次解釈の各種言説に右往左往、不正確議論に終始された方も多いのではないでしょうか?厳密で正確な文脈での再紹介を試みます
 

(注):表中のGroup2で、心電図異常が8割以上に上ることを言っています。「約50Bq/kg」と書きましたが、実際は、このグループの内部被曝量の平均は38Bq/kgです。心電図異常の内容が、この論文には詳しく書かれていないのですが、そのほかの彼の発表では、再分極異常などを取り上げています。これはQT延長などを含む異常とここでは解釈し議論しています。
(注2):その後の考察の結果、QT延長(または潜在性QT延長)の他、脚ブロック(QRSの変化)、ST部分の変化、J波出現などの可能性も考慮できると考えています。別途補足させていただきます。
(注3):10Bq/kgというのは、長期に食べる場合、我慢の上限値で、本当は、もっともっと下を目指さないといけないと考えています。
(再び注3について) 4/10/2016:ブログの当初の記事では、「主食は10Bq/kg以下を死守、それでも高すぎる」という表現をしていましたが、現在は、毎日食べる主食ならば、もっと下の数値、例えば数Bq/kg以下を目指すべき、と考えています。

(記事更新)11/1/2015 当ブログの理論が分かりにくい、誤解されやすいという指摘を受けましたので、附記7-18を追加しました。漸次加筆公開してまいりたいと思います。
 
(記事更新)4/10/2016 少し、記事の正確性を吟味し、注2などを含み、記述を一部修正しました。
 
(記事更新)12/31/2019 未公開のままだった記事の一部を公開しました。
 
(記事更新)11/7/2020 この理論の根幹のテーマである、放射性元素の崩壊に伴う元素変換 の際の、物性の変化こそが、周囲の生命体分子に影響を与えるという、いままで完全に見落とされてきた盲点。記事の要所要所では、Cs137, C14, トリチウムなどに関し、言及していますが、従来の放射線物理学的思考パターンでは、「出てくる放射線」のみしか考察しておらず、影響を完全に見誤っていると考えられます。これは、外部被曝の際には「物性」は問題とならないので良いのですが、内部被曝ではそうではありません。この、誰もが考察せねばならない物性、という問題に関し、ほとんどの学者たちが、なぜ目くらましにあってきたかという理由の一つに、「内部被曝」という言葉自体のもつ、「被曝」というイメージにも影響されているのではないかと思います。これまで、記事の中で一貫して指摘してきたこのポイントを、一つの項目にまとめておこうと、別項目を作成しました。