内部被曝を考察するブログ

2年近く前に骨折をしてから中断していた自転車通勤を再開しました。良い季節ですね。皆様がご健康でおられ、良い一週間でありますように。

LNT議論の功罪

 

11/8/2015執筆、12/26/2019 改定、Yahoo Blogなどより移行公開

 

原発事故以降、よく我々の耳に入ってくる議論として、「LNT仮説は正しいか否か」という議論があります。つまり、この議論がヒートアップしてしまう背景として、「100mSv以下の健康障害はあるのかないのか(問題視するほど大きなものなのか否か)」、そして、「低線量被曝による健康障害は、予想外に大きいのではないか、いやそんなことあるはずない」、など、かみ合うようで噛み合わない、どこか議論の歯車が、双方ずれてしまっているのではないかと案ずるような 、そんな議論の応酬の数々でした。

 

私個人的には、この、LNT云々の議論には、あえて参加しないようにしてきました。また、「低線量云々」という議論は、「低線量」というタームが出た時点で、それが、原発賛成派であれ、反対派であれ、現行理論信奉派であれ、批判であれ、いずれにも組しない、というスタンスで傍観しています。

 

そもそも、きちんとした議論をしたいのであれば、「低線量被曝」などという曖昧な語句は使用すべきではないのです。「低線量」という言葉を使用した時点で、外部被曝も、内部被曝も、K40による内部被曝も、Cs137も、ヨウ素も、ストロンチウムも、グシャグシャにして、また、汚染粉塵付着による粘膜局所症状も、何もかも、(汚い言い方になりますが)「ミソもクソも一緒に」かき混ぜて、議論してしまうことになるからで、いったい、議論している本人の方達も、何を対象に議論しているのか、時々、わからなくなってしまっていることも多いのではないでしょうか?

 

そうではなく、きちんと、外部被曝を論じたいのであれば、外部被曝の「低線量」ことを論じればいいし、内部被曝でも、汚染粉塵のことを論じたいのであれば、付着局所のことを丁寧に計算すればいいし、その際の急性症状を議論したいのであれば、鼻血のことをきちんと論じればいいし、慢性的な影響に関する議論であれば、きちんと、モデルの妥当性から洗い直して、現行の放射線理論のモデルの不備に気をつけながら論じなければならないし、消化吸収による内部被曝を論じたいのであれば、それが、カリウムなのか、セシウムなのか、核種による生体内挙動の違い、特に、当理論で扱っている、生体分子との相互関係には細心の注意を払って議論していけばいいのです。

 

以上を踏まえた上で、LNT云々に対する私のスタンスを少々。

 

LNT仮説に関しての現在争点というのは、結局、いわゆる「低線量域」での健康障害出現に閾値があるのか、ないのか?というテーマの議論。(しつこいようですが、「低線量」というタームを使い始めた時点で、議論がトートロジーに陥ってしまうのは必至であり、大変残念なのですが、そこは押して、私もここで意見を述べてみます。)

 

まず、この、「閾値」問題。僭越ながら、細胞レベルでの閾値あり、なしと、疫学レベルでの閾値あり、なしの議論は、厳密に区別して議論すべきだと、常々思っております。

 

その前提で、厳密な議論をしていけば、外部照射による、放射線直接影響に限定したレベでの、細胞レベルで、遺伝子変異をアウトプットとした影響には、当然、閾値はあるでしょう。これは、各種実験データの示す通りです。「閾値あり」派(「従って、少々の低レベルの被曝は容認しよう」という放射能被曝限度を緩めようとする人たち)は、ここにこだわっているのですね。しかし、疫学レベルでの論では、いわゆる現行理論派が呼ぶところの「低線量域」での影響は、ごく微量の放射性セシウム内部被曝による、急性・亜急性・慢性影響は、いずれも、現行理論を大きく逸脱し、(現行理論では説明不可能なものが)、観測されうる、と、綺麗に定量的に説明する理論は、当理論で扱ったように、十分可能です。また、汚染粉塵による、呼吸器系への長期影響に関しては、これまでも、データをきちんと取る試みすら、まだまだ課題は山積みという状況です。

 

このあたりを、どう捉えていくかが、現状の、LNT仮説云々を、どう扱うか、閾値があるのかないのか、その議論の混乱の一つの要因です。 あくまで、強調しておきたいのは、何をテーマに議論しているのかの、厳格な線引きをしないで、いくらLNTが、と論じていっても、混乱に混乱を重ねるだけだという点。

 

私は、細胞レベル・外照射では、放射線直接影響での、遺伝子変異をアウトプットとした影響には、閾値はあるだろう、しかし、疫学レベルでは、従来の「ごく低線量域」で影響があるように見える部分には、セシウムなどのごく微量の内部被曝、など、による影響(or交絡因子)を観測している可能性が高い、という立場です。

 

結局、疫学上いわゆる従来理論上の「低線量域」での観測可能影響を、無視しうるのか否か、LNTを認めるのか否かという議論にはあまり意味はなく、内部被曝にこそ、従来以上の厳格な対策と規制値の(厳しい方向への)見直しを、と、論じていくべき、という立場です。

 

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