内部被曝を考察するブログ

2年近く前に骨折をしてから中断していた自転車通勤を再開しました。良い季節ですね。皆様がご健康でおられ、良い一週間でありますように。

この理論以外で微量放射性セシウムによる心筋症の説明が可能か?理論の特徴に関するいくつかのポイントのまとめ

11/1/2015 執筆、12/18/2019 Yahoo Blogから移行公開

 

放射性セシウムによる心筋症、いってみれば、Bandazhevskyの心筋症に関するメカニズムの説明を試みた理論は、もしかしたら、私の他にも、別の説明をされておられる方もおられるかもしれません。

 

カリウム・チャネルだけを取り上げてみても、実際、原発事故後、私以外にも、何人かの方が、カリムチャネルのことを議論しておられるのを見かけた気がします。また、私がここで論じた理論を発展させ、ストロンチウムなど、他の核種へ理論を拡大を試みられた方もおられると伺っています。

 

ただ、おそらく、ですが、厳密なことを言うと、この理論以外の方法では、どの意見も、ほころびが来るのではないかというのが、現在の私の認識です。

 

簡単に、この理論の特徴と、なぜ、この理論以外の説明ではうまく行かないのかをまとめておきたいと思います。

 

 

この理論の特徴をまず列記します。

 

1.セシウムイオンが、カリウムチャネルにたいする挙動が、カリウムイオンとは全く異なるのだ、という点に着目。

 

2.内向き整流カリウムチャネルには、セシウムイオンは、ガチガチにはまり込むのだ、という事実を踏まえ、論じている。

 

3.放射性元素が、足場固定された時に崩壊すると、その周囲への影響の与え方が異なる可能性を論じている。

 

4.放射性元素が崩壊時、放射線を出す以外に、配位座などの性質が、瞬時に、劇的に変化する事実を論じている。つまり、放射性元素の崩壊時に、放射性元素が配位している周囲に対し、化学触媒的に作用するということを論じている。

 

5.分子の壊れ方に、recessive な壊れ方だけではなく、dominantな壊れ方があるのだということをきちんと議論し、定量考察に結び付けている。loss-of-functionな壊れ方だけではなく、gain-of-functionなこわれかたがあるのだ、という事実をきちんと整理し、定量考察に結び付けている。

 

6.心筋再分極の外向きカリウム電流を定量的に議論するのが再分極に重要と、specificな議論をしている。

 

7.通常の第2相の再分極は、外向きK電流(IKs, KvLQT1による)のみを考えていればいいが、ここに、Kirが逆向きに邪魔をする可能性を論じている。

 

8.KvLQT1とKirのCsへのAffinityの差を論じている。

 

9.通常のKvLQT1が、実は平時には、極めて粗な開確率で動作していることを組み込み、「たった1個のチャネルの異常で、影響なんて出るわけがない」という先入観を捨て、議論している。

 

10.心筋が直列接続である、という事実を定量議論に組み込み、並列システムよりもごくわずかの量で影響が起こりうることを論じている。

 

11.心臓には「リーキーチャネルがたくさんあるので、少々のチャネルがオープンになったところで影響はないはず」という、旧来のチャネル生理学のドグマの見落としを踏まえ、論じている。

 

12.制御の安定性が、システムの不調を来す、つまり、タイミングがずれることが、システムの正常動作の破綻(発振、発散、不安定性)に至るのだ、というシステム論を論じている。

 

 

などなど、いくつかのテーマが組み合わさり、このブログで述べた全体の理論になります。

 

 

この、どれかが欠けても、ここに記した理論に関しては、成り立たないと考えています。1.の条件を満たす議論は私も耳にしたことはありますが、それ以外の理論上の必須条件に関しては、寡聞にして、見かけたことがありません。

 

また、非放射性セシウムを中心に、似たようなことを述べられておられる方も目にしましたが、3.4.5.のため、理論的にうまくいかず、その後の12.まで全ての議論が崩れてしまいますし、定量的にも全く説明ができませんし、辻褄が合いません。また、Cs137の崩壊後の核種であるBaを中心に議論されておられる方も目にしましたが、やはり、3.から12.まで、すべての必要事項が崩れてしまいますし、定量的にも、桁違いに、影響の表在化にはつながらないだろうと帰結できます。ストロンチウムなどの、他の核種の理論拡大に関しては、他項に議論をまとめているのですが、おそらく、ですが、ターゲットをカリムチャネル以外のチャネル(カルシウムチャネルなど)と考慮する場合、2.3.が成立せず、したがって、4.も成立しないため、セシウムと同様の議論が成り立たない可能性が高いと思っています。ただ、ストロンチウムに関しては、私の見落としがある可能性もあるので、そのことも含め、詳しくは別項にて議論したいと思います。

 

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以前に、原発問題を扱っておられる有志の識者の方とのメールのやり取りをさせていただくという幸運に恵まれたことがありました。以下では、その折のことをヒントに、この場では、架空の質問者からの質問への応答という形式をとらせていただき、私の議論の特徴と、私のこの問題への取り組み方に関する説明とさせていただきたいと思います。

 

 

以下、架空の質問者からの架空のご意見という想定です。

 

(架空の質問)

チャンネル障害のメカニズムに関し、もっと多様な可能性を論じたほうが良いのではないでしょうか。

カリウムチャンネルの中で放射性セシウムが壊変を起こすという点への着目以外にも説明方法があるのではないでしょうか?

セシウム原子自体によるチャネル閉塞や、放射性セシウム崩壊後のバリウムによるチャネル閉塞で説明できるのではないでしょうか?

バリウムイオンによる、カリウムチャネルの阻害作用は、医学的にも確立しているので、そちらの説明の方がすっきりするのではないでしょうか?

 

(回答)
私の以前の書き方が悪く、セシウムイオンがカリウムチャネルを通過する際に、通過速度が遅くなる、というような書き方をしていた時代がありました。現在は、誤解のないよう注釈をつけていますが、「通過速度が遅くなる」ことが問題なのではなく、Kirチャネルには、Csイオンは、特定箇所ではまり込んでしまう、その固定条件が、しっかりとしたエネルギー伝達の足場になることが重要、というのが、当理論の最初の着眼点と考えています。あえて「閉塞」という言葉は理由があって使っていませんが、ご指摘の通り、わたしも、崩壊を起こすまでは「閉塞」と同じことと捉えています。

 

https://geruman-bingo.hatenablog.com/entry/8564066



ただし、コールドのCsイオンのように、「閉塞」を起こしているだけでは、量的なことから言って、心臓の臓器機能に影響を及ぼすほどの伝達障害は起こりえないと考えられます。バンダジェフスキーの報告している、影響が顕著に出得る量つまり、体重あたり10-50Bq/kgのCsというのは、原子数に直すと、かりに全てCs137と仮定しても、(Cs137の場合1Bq=1.4x10e9個であり、また、心臓0.3kg, 心筋細胞密度4.3x10e10kgとして)、心筋細胞の1個あたり、1-5個程度のCs137が存在することになります。ただし、言うまでもないことですが、現在進行形で崩壊しているCs137以外の、非崩壊時の99.999...%のCs137は、ただそこに存在するだけですから、コールドのCsと同じ扱いになります。もしも、「崩壊を起こすことが重要である」と考えなければ、細胞あたり1-5個程度しか存在しないCsでは、問題は全く起こりえないと考えられます。(仮に心筋に500Bq/kgと見積もっても、10-50個程度と、極々少量であることに変わりません)。なぜなら、心筋細胞には、1種類のKチャネルだけを見ても、1細胞あたり数千ー数万個のチャネルがあります。これが、わかっているだけでも心筋細胞に10種類はざっと存在するわけです。かりに、特異的に、ある特定のKチャネルに「閉塞」したとして、数万個あるうちの1-5個が閉塞して働かなくなったからといって、細胞の機能に異常は来さないと考えられます。

 実際、コールドのCsを生体(ラットやイヌ)に投与したり、培養心筋細胞などに投与する実験、そして、ヒトでもコールドのCs中毒のケースレポート等があるのですが、原子数として、1細胞あたりに取り込まれたCs個数での計算で、10の9乗個くらいを投与してやらないと、心筋の機能に影響を出すことができません。これは、バンダジェフスキーの内部被曝報告からの算出と比較して、10の7-9乗倍の過剰量にもなります。つまり、「閉塞」を主眼とした考え方で行くと、機能障害を起こすのは、それだけ超大量に「閉塞」をおこしてやらねばならない、ということが実験からわかっています。

 つまり、チェルノブイリで起こった内部被曝量程度のCsでの影響を、「閉塞」で説明することは不可能だろう、というのが、あのブログのすべての議論のスタート地点で、私が、2011年の事故後、バンダジェフスキーの報告をきちんと説明してみたい、と思ったきっかけです。

 当理論で、この点を誤解される方が多いと過去に指摘を受けましたので、私のブログの方にも、その後、この点を少し、補足説明させていただいています。
https://geruman-bingo.hatenablog.com/entry/13892337


 

また、バリウムイオンによるチャネル阻害作用に関するご指摘を、ありがとうございます。私も、BaのKチャネル一般への阻害作用は良く存じております。イオンチャネル学は、私の直属の専門分野というわけではないのですが、少し近い分野でもあり、また、手がけている研究テーマが若干接点を持つので、若い頃から、興味をもって接してきた分野です。MacKinnonがKチャネル構造解析でノーベル賞を取る数年前には既に、私の大学にも彼が何度か講義で訪れてくださり、迸るような熱い、最新の生データと、現在進行形で解き明かされつつある、チャネル生理学の最大の難テーマとの絡みに、胸を熱くして、講義に出席したものでした。この場の議論とは関係のない、あくまで余談ですが、BaイオンのKチャネル一般への阻害機構も、歴史的な重みのある、本当に奥の深いテーマです。質問者様には釈迦に説法になってしまうのを承知の上ですが、BaイオンのKチャネルへの閉塞は、Csの閉塞とはメカニズムが異なり、イオン選択部へのflickering blockということが、1980年代のイカの軸索研究の時代に端を発し、長年の研究の結果、理論的にわかっています。道具の限られた先人たちの時代に、如何に皆が深い洞察と、丁寧な思考を持って、一つ一つのテーマに答えを見出していったかという歴史は、感動的だと思います。

 ただし、上にご説明させていただいたように、やはり、「閉塞」するだけでは、Cs/Baが微量であるうちは、臓器や細胞機能に影響の出ようがないと計算できます。おそらく、「旧来の放射線理論信奉派」(ICRP放射線理論や線量計算を過度に信頼しておられる方)の方達も、だからこそ、「この程度のセシウム内部被曝は全く問題ない」と、安全視をするような発言しておられる方もおられるのではないでしょうか?

 そうではないのです。大事なのは、「閉塞」をすることではなく、「閉塞をしたところで崩壊」をおこすこと。その結果、特定のチャネル(Kir系チャネル)が、dominant positive な機能をもつと考えられること。これが、ブログに記した理論の、スタート地点です。コールドのCsや、Baイオンは、「閉塞」を起こすだけであれば、recessive negativeの影響しか持ち得ないと見ることができるわけです。

以下が、その違いというテーマに関する補足記事です。
https://geruman-bingo.hatenablog.com/entry/13892337


 少々、断りもなく、dominant positive, recessive negativeという言葉を出してしまいました。もしかしたら、質問者様もすでによくご存知のことかもしれませんが、生物学系の言葉遣いに慣れておられないかたもおられるかもしれませんので、蛇足となることを承知で、注釈を入れさせていただきたいと思います。

 モノとモノが、単にくっついたり離れたり、引き寄せあったり反発したり、ぶつかったりということを繰り返す、passiveな影響しか考察対象としない一般物理学と違って、言うまでもなく生物学では、モノの「機能」というものを考えなければなりません。原始太古の昔、分子と分子がランダムにぶつかりあっていた時代を経て、地球上に有機分子というものが生まれ、生命が誕生し、何億年もかけて生命分子が進化してきたことの賜物で、進化のおかげで生命分子が巧妙な「機能」を持つに至ったわけです。

 したがって、放射性物質が、生物学的な「モノ」、つまりこの場合の、特異的なターゲットはKirというタンパクを想定しているわけですが、ここに影響を及ぼす場合の、「機能」の変化を、我々生物学者は、丁寧に考察しなければならないだろう、というのが、当理論の、一番最初の着眼点です。ここに着眼することが、従来的放射線学の思考では、一見不可能にも見える、「定量性」の解決の、最初のステップです。

 1980年代から1990年代の分子生物学、シグナル・トランスダクションの分野で薫陶を受けた世代以降だと、日常的に用いる考察ですが、機能の異常には、dominant positive, recessive positive, dominant negative, recessive negativeの4通りがあります。(ご存知のように、シグナル・トランスダクションの分野などでは、前2者をまとめてconstitutively activeという呼び方をすることも多いですけれども)。

 これも、ブログの主記事には、説明していることですが、やはり、誤解をされる方が多いという指摘を過去に受け、その後、補足記事を追加しています。
https://geruman-bingo.hatenablog.com/entry/13892258


 Kirの機能が、Cs崩壊に伴い、dominant positiveになると考えること、これが定量性の問題解決への第一歩であり、ブログの理論が当初から扱っている考え方の端緒です。

 さて話は戻りますが、ところで、一方、Csイオンのブロックは、Baとは様相が全く異なり、閉塞するチャネルはKir系の一部のみのグループですし、閉塞部位も異なります。これは、実は、ブログのテーマにそった理論構築の上では重要な部分で、もしもイオン選択部をCsが壊してしまうと、そもそもKチャネルですらなくなってしまうので、やはり、Csが閉塞する位置などの細かい条件も、やはり、当理論とは整合性があると思っています(このあたりのことは、重要なテーマになってきますので、記事を執筆中です)。

 

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これまでの放射線医学理論は、出てくる放射線のことのみを議論していました。この理論が初めて、「残された原子核の崩壊時の変化」が重要なのではないか、と重要性に焦点をあて、特異的なターゲットを指摘し、定量的な妥当性を検討しています。

 

(架空の質問) 

放射性セシウムによる、「セシウム・ボール」という、ナノメートル・サイズの高密度放射性汚染微粒子が、原発事故後、数多く発見され、人々が摂取してきたと言われています。このような微粒子が、細胞近傍から放射線を発し続け、(カリウムチャネルにも)影響を及ぼすというメカニズムはないのでしょうか?

 

 

(回答)
 ご高説、ごもっともと思いますし、一般論としてはこの考え方を否定する考えはありませんが、イオンチャネルへの影響だけに限って言えば、ブログに述べた理論にそった考え方で、隅々まで整合性のある説明が可能であると考え、現在は、細かい部分の補足、より厳密な計算、ブログで議論し残したことと、実際に起こっているであろう変化に関する説明を行いたいと思い、その方向で努力しています。(ただし、現在、いくつか、議論の至っていない部分が見つかっているので、まだ大小の変更を行わなければならない段階です)。

 微粒子としての健康への影響にかんしては、放射能汚染粉塵(放射性プルーム)吸引による、呼吸器系への影響に関しては、私もブログ開設時に、公開記事以外に、考察を書いて来たのですが、思うところあって、現在は非公開のままにしています。当然すぎるくらいのことですが、鼻出血なども出て当たり前と考えられますし、量が多ければ急性呼吸器症状、微量であっても、排出が悪ければ、慢性呼吸器疾患や、呼吸器系の各種疾患の懸念というのは、当然予想されうることだとおもいます。定量的にも、微粒子による細胞破壊は、全くもって起こり得る高密度の放射性粉塵が検出されています(最近では福島原発事故での放射性粉塵も解析されたと伺っていますが、2011年3月の時点でも、すでに、チェルノブイリ事故時のイギリスの調査で、0.5-数ベクレル/ミクロンサイズのβ線核種の粉塵検出という報告が公開されており、日本の事故でも同程度の高密度パーティクルの検出が当初から予想出来ました)。

 ではなぜ、汚染粉塵による、不均等被曝による局所影響というテーマを、ブログの方で取り扱わないのか、議論を公開していないのか。

 学問的には重要な問題で、すでに方々で指摘されている通り、旧来の放射線医学やICRPの「線量計算」による見積もりが、大きく外れ得ると、誰もが予想し得る、明らかな例の一つであることは、間違いありません。これは、私も2011年以前より、それこそ、何十年か前、学生時代の「放射線防護実習」の試験の時にも、指導教官に対して現行の放射線理論への矛盾をぶつけてきたテーマですから、個人的にも長年のテーマでもあります。きちんと計算すれば、理論的な面だけで言えば、ほぼ厳密に、綺麗に、旧来の理論に反駁することが容易ですし、実際の観察データとの差異を調整しつつ、それを学問の場では行っていくのが、将来に残された、学者たちの宿題の一つだと思います。(ただし過去には、同様の問題意識をもつ学者が、旧来理論との乖離を導こうと論戦を張ったのですが、検証のための実験デザインとその解釈が難しかったこともあり、複雑な経緯をたどってしまった歴史があります。よくご存知のことかとは思いますが)。

 実際、私も、そう思い、当初は記事を書きしたためたのですが、ふと考えたのが、、、

 

(以下、長くなるので省略します)

 
 食事などからのセシウム摂取の方に、より議論の中心を据えているのは、そのためです。もう一つは、汚染粉塵による局所不均等被曝による細胞障害の影響は、(細かい計算方法は抜きにすれば)、すでに方々で多くの心ある識者の方達が、素晴らしい見解を沢山、述べておられ、私の出る幕もないだろう、と現在は考えています。(ただし、今は事態の推移を遠くから見守っているだけですが、もしも自分だけにしか述べることができない視点と、上手い表現の仕方があれば、今後議論させていただくことがあるかもしれません)。

 さて、以上の点が、「放射性汚染粉塵による局所不均等被曝による影響」というテーマに関する私の立場です。想像では、質問者様と、ほぼ同じようなことを、不肖ながら私も考えている、と理解しています。ただし、私がこの議論を適用するのは、現在は、あくまで、呼吸器系への影響に関してのみ、です。たとえば、ミクロンサイズのパーティクルは、少し大きすぎて、たとえ肺胞内で貪食されても、遠方の臓器には量としては拡散していかないだろう、と、希望的観測で考えています。この場合の議論で扱っているテーマは、細胞障害を起こしうるほどの、高密度放射能パーティクルです。貪食細胞自体も、すぐに放射能で障害されてしまうでしょうから、結果としては遠地までは運搬しえないだろう、という予測が一つ。これが、ナノサイズのパーティクルになったときにはどうか?その時には、どの程度吸収され、どの程度拡散していき得るのか?これは、少々難しいテーマだと感じます。ここを否定するつもりはもちろんありませんし、臓器によっては影響があり得るかもしれませんが、今は、自分の中ではこのテーマに積極的に関与することはない考えです。言うまでもなく、質問者様をはじめ、私以上に詳しくこのテーマを考察されておられる方が、おそらくたくさんいらっしゃることと想像しています。

 なお、当然、確認するまでもないことだとは思いますが、この、汚染パーティクルによる局所不均等被曝による細胞障害効果(呼吸器系に関しては全くもって同意です)というのは、「細胞障害」が論点であって、「イオンチャネルに対する影響」を論じているわけではありませんよね?

 ともかく、汚染物質の、体内への取り込まれ方の形態によって、沈着する形態が違い、沈着するターゲット、部位が違えば、異なる影響の出方を考えなければならないのは当然ですから、イオンチャネルに関する影響とは別に、並列の現象として、私は考えています。

 私のブログの内容が、ほぼ、バンダジェフスキーの心筋症の説明に腐心しているので、それ以外を重要視していないのではないか、という誤解を与えてしまっているようでしたら、申し訳ありませんでした。私も、汚染粉塵による局所不均等被曝の影響にかんしては、質問者様と同様に考えており、学生時代以来、旧来理論を疑問視している一つの所以でもあります。

 
(架空の質問)
現在、放射線の生体への影響は、放射線の直接の照射による直接の破壊だけでなく、放射線が発生させる活性酸素フリーラジカルが、問題だということがわかっています。カリウムチャネルに対しても、放射線の直接の影響だけではなく、こうした、活性酸素やフィリーラジカルが間接的にカリウムチャンネル系に損傷を及ぼすメカニズムを論じた方が良いのではないでしょうか?

 

(回答)

おっしゃる通り、一般則としての、放射線の細胞障害、分子障害のメカニズムは、活性酸素フリーラジカルによるものが主体という認識を、私も共有しています。「現行の線量計算を内部被爆に用いる際の問題点」という記事を当初書き留めていたものの、非公開としていた記事を、最近公開しました。このことに簡単に触れています。

https://geruman-bingo.hatenablog.com/entry/2019/12/17/143641



外部被曝であれ、内部被曝であれ、放射線が、電離を起こし、その対象の多くは、水分子の電離ですから、活性酸素などを介したメカニズムが重要である、というのは、私も全く同意です。結局、放射線が貫いて、エネルギーを付与する対象が、水分子であれば、活性酸素フリーラジカルが生じますし、DNAを直接貫けば、DNAですし、タンパクや脂質にエネルギーを付与すれば、これらの分子に影響を与えます。放射線が、どこを貫くか、という確率の問題ですね。内部被曝にしても、外部被曝にしても、人間の体、人間の細胞の大部分は、水でできています。DNAですら、通常は大量の水の中に浮かんでいます。したがって、状況にもよりますが、ほとんどのケースでは、生成された活性酸素フリーラジカルを介して、ターゲット分子が破壊されている、と考えられます。これは、方々で学者の解説している通りの話を、私も最初から、大前提として受け入れています。

ただし、Kirチャネルと、放射性Csの関係だけにおいては、実は例外的に、もっと特異的な相互関係が考えられる、というのが、ブログのテーマです。(また、この際の影響の及ぼし方も、「出てくる放射線による直接破壊」というよりは、「崩壊時の原子核の核変化」が重要という議論です。このあたりのニュアンスは、議論が難しいこともあり、初期の投稿では少し曖昧な表現にとどめてしまっています)。なぜこの関係だけは、例外と考えられるか、というと、CsとKirが、(結合時の瞬間々々という目で見れば)互いに「固く固定」され、「隣接」しているという関係にあることが、理論上重要と考えているからです。同じ内部被曝原発事故での核種や、医療目的の投与なども含めて)といっても、その他の核種には、なかなか見られない関係かと思います。ただし、自然内部被曝源である、C14とトリチウム。これは、面白いことに、見事にこの関係が成り立ってしまうのですが、実は、全く問題無いと、理論的に導くことが出来ます。一方、原発事故でも問題視され、また、医療的にも大量投与することのある放射性ヨウ素。この問題の議論は、当理論の延長線上で考えていくと、確かに、ある意味、甲状腺ホルモンをはじめとした生体分子にも「結合」しますが、仮にそこで崩壊したとて、recessive negativeな壊し方になると考えられますので、特異的な分子機能異常を介して、何か臓器機能に特異的な影響を出すということは考えなくても良いだろう、と思っています。(Clチャネルとの関係に関する私見に関しては、下の方に記していますので、ご参照ください)。ブログの方にも、放射性ヨウ素の件を記そうかと思い、当初も執筆仕掛けていたのですが、放射性ヨウ素の議論は、社会的な意味も含め(また、私自身にも見落としがある可能性もあり)、慎重な立場でいたいと思っており、今の所、記事を公開していません。以下は、それ以外の補足記事です。

<固定が重要という点の補足記事>
https://geruman-bingo.hatenablog.com/entry/13892320


<C14やトリチウムが(セシウムに比べると比較的)安全と考えられることの補足記事>

https://geruman-bingo.hatenablog.com/entry/10797999

(ただし、C14やトリチウムも「量の問題」であって、これらの核種による内部被曝が危険なことには変わりありませんし、従来の理論は大きく改定されなければならず、従来理論では見落とされている重要な視点があるということには変わりありません)

 

(架空の質問)
ある学者は、放射線によって生じる活性酸素が「イオンポンプに関連する酵素とタンパク質の不活性化」をもたらし、それによって、イオンチャンネル・システムを攪乱する可能性をすでに論じています。そのように考察した方が、良いのではないでしょうか?


(回答)
 私は、このご意見とは、考えを異にしています。但し、このような反応(活性酸素によるイオンポンプなどの障害)が起こらない、と否定しているわけではなく、当然、確率論の問題で、生成された活性酸素の近傍に、「イオンポンプ」なり何なりがあれば、当然、出会う確率の問題だけであって、なんらかの影響があるだろう、と言う部分には同意です。もしも仮に、放射性物質が、活性酸素生成を介してイオンチャネルやイオンポンプを不活性化するのであれば、それは、かなり非特異的な反応になるでしょうから、「不活性化」されるだろう、という推論には同意です。活性酸素がチャネルのどの箇所と出会うのかは、タンパク表面の形状とチャージ、なによりお互いの位置関係に基づく、ランダムな確率的条件プラスアルファによって規定されると考えられますから、ランダムに攻撃が起こる限り、ほぼ全て、機能としては、recessive negativeな異常になるはずで、「不活性化」という表現が適当だと思います。しかし、「不活性化」つまり、機能がrecessive negativeになるだけでは、細胞の機能にも、臓器の機能にも、影響を出し得ないと、定量的に至ってしまうのです。

 このブログに記したのは、そうではなくて、Kir-Csの特異的な部位の作用で、dominant positiveな機能を持つ形に、チャネルが固定されうる、というのが、論旨の一つです。この着眼点が、当理論の、第一の論点ですから、最初の記事にも、繰り返し述べてきていることですが、この点も、誤解を生みやすいという指摘がありましたので、その後、補足記事を書かせて頂いています。

https://geruman-bingo.hatenablog.com/entry/13892258

 



(架空の質問)

障害を受けるチャンネルとして、カリウムチャンネルのみに限定して議論をされているようですが、イオンチャンネル系の損傷は、もっと広く考えるべきではないのでしょうか?カルシウムチャネルの損傷や、ナトリウムチャネルや、その他のチャネルの損傷も論じた方が良いのではないでしょうか?また、イオン・ポンプのような分子がターゲットになる可能性はどうでしょうか?

 

 

(回答)
まず、端的に、ご返答を申し上げますと、現在は、放射性Csの特異的ターゲットは、Kチャネル、その中でも、Kir系チャネルという、特徴的な一部のグループ。もっと推論をいいますと、心筋ではおそらく、Kir2.1とKir2.2あたりになるのだろうな、と考えています。

放射性物質が、ごくごく微量で、何かの機能に影響を与えるためには、非特異的なターゲットを、ランダムに壊すのでは、影響が出る理論を導きにくく、あくまで、特異的なターゲットを、特異的な形で壊すことが必要なのだろう、と予想しています。その予想の元に、実際に定量計算を行い、大まかな桁としてはつじつまが合っていそうだ、というのが、ブログの最初の記事の内容です。(ただし、部分部分で、計算や考え方に厳密でない点がありますので、現在、より厳密な計算を進め、理論の修正と厳密化を進めています)。

実際に、理論的予想と、自然の法則が上手く合致する例の一つと言ってもいいのではないかと思いますが、Csが、特異的な固定をする生命分子は、特定のKir系チャネルだけのようです。チャネルブロックという意味では、Elk(Kv12)やHCN系チャネルもある程度高濃度のCsではブロックされますが、いずれもCs-Kirのような特異的な「固い結合」ではないようです。

 ある放射性物質が、ある特定の生命体分子に、特異的な影響を与えるためには、まずは、その分子に特定の部位で結合するなり、特異的な相互作用を持たなければなりません。

(特異的に結合することがエネルギー伝達のために大事、ということは、最初の記事でも繰り返し書いていますが、その後、補足記事も書かせていただきました)
https://geruman-bingo.hatenablog.com/entry/13892320


 残念ながら(というか、幸いにというか)、このような特異的な結合をもつ関係にある放射性物質と、生命体分子の関係(特にイオンチャネルに限って言えば)は、今の所、私が調べ、自信をもって公言できるのは、CsとKirの関係だけです。Csイオンも、Naチャネルに詰まるような挙動はしないようですし(NaチャネルがCs+を通さないとすれば、それはサイズ的に排除しているのであって、内部で詰まっていると考えられている訳ではないと思います)、また、Srなども、よく似た2価のCaチャネルにはまり込むのか、といえば、意外にそうでもなく、現在判明しているCaチャネル系は、ほぼすべて、Srを非常に良く、スムーズに通すことがわかっているようです。(もしも私が調べ切れていない範囲で実験的にSr2+でCaチャネルをブロックするような文献があるとすれば、それは特異的なブロックではなく、競合阻害という形での実験かと思います)。 Iイオンに関しても、Clチャネル系に関しては状況は複雑なようで、ブロックすることにはするタイプのClチャネルも無いわけではないようですが、いずれも、強固なブロックではなく、Cs-Kirの関係のような固い固定の条件というのは、存在しないのではないかという印象を持っています。(C14とトリチウムについては、別途の返答で、上記に書かせて頂きました)。

 私自身も、2011年の原発直後には、Cs-Kirの理論の端緒に気がついた直後、イオンチャネルに広く拡大できるのか、と思い、しばらく考察したこともありましたが、Srに関しても、Caチャネル系に関しては、ほぼ素通しのものばかりで、Cs以外の放射性元素の、チャネル系への影響に関しては、個人的には考察を一旦お蔵入りにさせています。ただし、チャネル以外に目を向けると、2価イオン結合性の生体分子というのは、たくさん存在するので、もしかしたら、Srがなんらかの特異的影響をもたらす生体分子というのは、可能性は残されているのかもしれません。ただし、医療内部被曝核種としてもSrは大量に使用されてきており、詳しいことが調べられていないとは言え、その知見も蓄積しつつあるので、危険性の理論だけではなく、もしかしたら、意外に、特異的作用はそれほど大きなものは表面化してこないのではないかという対案も含め、バイアスのない目で両論併記で考察していかなければならないという気がしています。

 

 

(架空の質問)

カリウムチャネル障害による心臓への影響だけを論じておられるようですが、チャンネル系の損傷が及ぼす多彩な臓器への影響を介した、多彩な健康影響もまた、もっと広く考えるべきなのではないでしょうか?

 

(回答)
おっしゃる通りと思います。ご質問と同時期に、私も、以前書き留めておいた、心臓以外の多彩な臓器影響に関する記事を公開しています。

https://geruman-bingo.hatenablog.com/entry/13892545

 

初期の、私のこの問題に対するアプローチは、最初から理論を拡大しすぎるよりは、まずは、一番明瞭で、一番定量的議論のしやすい心筋症に絞り、あえて、「一点突破をすること」でした。

これは、 戦線拡大しすぎてしまうと、(私自身が、元来お調子者であることもあり)不確かなことを、たくさん述べすぎて自分自身の議論の信用性を落とすことになるかもしれない、という、自分自身の問題点を踏まえた上での、当初の決意でした。従って、まずは、ひとつの現象を深く掘り下げ、理論が十分に温められ、練度が高まったと思えたら、その時に初めて、その他の症状への理論拡大。

これが、2011年にこの問題を考察し始めた時の個人的な決意です。

もちろん、とは言っても、当然のことながら、全く同様の理論で、骨格筋、血管系、神経系、その他もろもろの臓器への影響は、カバー出来るだろう、と言うことは、最初から考えていました。

 2013年だかの頃、ブログを記し始めた初期の頃にも、訪問者のかたが(そのうちのお一人が*** 様です)、その他の症状のことをご質問くださり、コメント欄で、拙見を述べさせていただき、意見交換をさせていただいた思い出があります。

最初の記事のコメント欄、特に2013年6月頃のコメントのやりとりをご参照ください)

 現在は、当初の予定通り、心筋症に関しては(まだ不完全ながら)、ある程度議論の骨子が出来てきた気が個人的には致しますので、その他の症状に理論拡大をしています。

下記の補足記事で、心筋以外への症状の考え方を、記させていただいています。
https://geruman-bingo.hatenablog.com/entry/13892545


 補足記事にも書いているのですが、 他臓器への影響推察のための、幾つかの条件を推論しています。放射性Cs-Kir系の特異的な関係からのKir 機能異常による心筋症をある程度、練度を高めていく上で、得られた考察です。
(1) KirなどのCsイオンに対する高親和性のカリウムチャネルが、高発現している臓器
(2) カリウムチャネルによる電位調節が、組織機能維持に重要な働きをしている臓器
(3) 直列接続(神経系、骨格筋、ギャップジャンクションが重要機能をもつ臓器)
(4) Kirチャネルがdominant positiveになることにより生じる、タイミングのズレが、不安定性創出になるような、フィードバック制御をしている機能

補足記事に簡単な説明をつけていますが、骨格筋機能、各種神経症状、血管症状、白内障、膀胱症状、消化器系、代謝疾患、免疫造血系、乳腺疾患など、チェルノブイリで増加の報告された、ほぼすべての疾患が、比較的綺麗にシンプルな考察で、理論に外挿できそうです。

 質問者様のご指摘通り、私も、2011年の考え始めの頃は、骨格筋、神経系、血管系、白内障、膀胱、消化管あたりまでは、容易にカバーできるだろうと思っていましたが、心筋の問題を考察しつつ、Kirチャネル系のことを深く調べていくうちに、意外にもっと、広い分野が(造血免疫系、内分泌代謝系などなどまで含め)、この理論で簡単にカバーできそうであることに気がつきました。

ストレートすぎる物言いになってしまっていたら申し訳ないのですが、ただし、私の場合には、あくまでKir系による説明を主眼としており、その他のチャネル系に関しては、可能性はもしかしたら低いのではないか、と考えていることが、若干の相違でしょうか。理由は上に述べてきたとおりです。ただし、自分の見落としがある可能性も多分にあると思いますので、(私自身は、その他のイオンチャネルの考察には、現在は、関与はしない方針ですが)、心ある識者の方が、新しい知見を切り開いてくださることは、見守らせていただき、勉強させて頂きたいと思っています。

 

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謝辞:この記事の後半の質疑応答は、2015年頃に、実際に私がやり取りをさせていただいた識者の方との経緯をヒントに、記事を書かせていただいています。有意義で鋭いご質問をいただいたことを、この場を借りて、感謝申し上げております。ありがとうございました。