内部被曝を考察するブログ

2年近く前に骨折をしてから中断していた自転車通勤を再開しました。良い季節ですね。皆様がご健康でおられ、良い一週間でありますように。

線量計算の新しい考え方への提言と、数式の例

2/23/2013執筆、11/19/2015加筆、12/30/2019 Yahoo Blogより移行公開

 

みなさん、よくご存知のことかと思いますが、現在の放射線理論は、確率的影響、確定的影響という具合に、放射線の影響を便宜的に分けて、それぞれを、別個に論じていきます。現行の理論は、主に放射線物理学的な考え方をベースにし、確定的影響にしても、確率的影響にしても、被曝した「線量」から、単純な計算で影響を見積もることができだろう、という仮定のもとに築き上げられています。

 

ですが、その仮定は部分的には正しいように思えるもの、実はある種の内部被曝などには間違っているのではないか、「線量」の計算は、あのままでは、まずいのではないか、という批判が、方々からなされていることは、これも耳にされたことのある方も多いことかと思います。

批判の最大の引き金となったのは、チェルノブイリ事故の際、「線量」の計算からは、とても考えられないと思える健康障害のレポートが相次いだ事です。そして、なぜ、そのような、線量からは説明のつかない事象が起こるのかは、未だに綺麗には説明されていないままです(僭越ながら、当理論を当てはめると、かなりの部分に、ある程度一貫性のある説明がつく事になると考えています)。

また、現行の放射線理論信奉派は、様々な理由をつけ、線量計算に合わない調査は、切り捨ててきました。結果、理論に合わないデータが切り捨てられ、理論が自己強化をしてしまう、という、トートロジーに陥ってしまっているのが現状で、学問としては、最も気をつけなければならない、御法度の事項です。

 

ところで、私個人の、現行理論に対するスタンスを書いておきます。従来の放射線医学は、幾つかの前提事項を満たさない被曝形式においては、矛盾や問題が多すぎるため、このブログでの議論においては、従来の放射線医学の考え方に則った計算は、一切を避ける、という方針で、セシウム内部被曝の問題などを論じています。とは言っても、従来の理論を避けてばかりいては、どこに不正確さがあるのか、どのように考えを正していけば良いのか、具体的な議論が進みませんので、この項においてのみ、従来の放射線理論の考え方である、「確定的影響」「確率的影響」「線量」などの考え方について、触れておきたいと思います。

 

 

多くの方には、蛇足的にはなりますが、まず、基本的事項を書いておきます。確定的影響は、細胞、または組織の障害の問題。鼻血の問題などは、鼻粘膜局所における、確定的影響ですね(ただし、従来理論の計算方法は明らかに間違っていますが。特に、臓器総量で計算をするやり方、RBEでβ=γ=1とおくパラメータの計算方法。ちなみに、前者の、臓器総量vs局所集中の問題は、時折、さすがに放射線物理学者も、おかしいと思う人はいて、1940年代から問題提起されては否定され、という歴史が繰り返されています。直近では1970年代の有名な論争があります。しかしながら、1970年当時は、不幸な議論の転帰と誤誘導により、しばらく議論が後退してしまった時期がありました。別項にて詳しく論じます)。

 

さて一方、確率的影響の代表的なものは、発ガンです。おそらく、特に東日本大震災原発事故後は、本邦でも、放射線の議論の多くは、この、確率的影響がどうだとか、という話を中心に議論されてきたのではないでしょうか。

 

そこで、この項では、旧来の線量計算の考え方に則り、発ガンの問題を論じていきますが、旧来の線量計算の考え方や、計算方法の、どこに見落としがあり、どのように正していけばいいのかを論じるために、あえて、旧来の線量計算方法の土俵の上で、式を吟味していきます。

 

別項で論じたように、そもそも、現行の放射線理論が、臓器においての「吸収線量」をベースに計算していく背景に、(i) 放射線の組織吸収エネルギーが、組織の細胞のDNAの変異をもたらす。(ii)そして、変異の総量は、組織全体で平均すればいい。さらに(iii) 遺伝子変異のみを論じていれば、発ガンの議論は事足りる。という、少なくとも3つの不正確な考察に基づいています。

 

現行理論派に言わせると、こういった仮定は、過去の疫学調査のデータで支持されているそうなのですが、交絡因子の見落としと、循環論法に陥っている可能性が高いというのが、私を含め、批判派の指摘です。

 

議論を始める前に、まず気をつけなければならないのは、従来の線量計算は、例えば発ガンなどの確率的影響を論じるための「便宜的防護指標」ということだけであって、この、線量計算を持って、発ガンが必ずしも(概算としてだけのレベルであったとしても)見積もれるわけではない。核種や被曝形態によって、桁違いに見積もりが外れる被曝がある可能性を、排除するものではない、ということ。にもかかわらず、従来の理論信奉派の方が、時に「xxxmSv程度では、yyyの健康障害は考え難い」という論調に使ってしまってきているのは、まさに、最も気をつけなければならない、循環論法による理論強化の一例で、放射線理論のもたらした、 負の遺産の一つと考えています。

 

さて、少し議論を始めてみます。2013年時点で、どう「発ガン」を捉えればいいのか。まず、現行理論の発想の問題点の一つなのですが、発ガンにおいて、(A)遺伝子への放射線のアタックを考えれば議論が済むという発想は、1980年代前半までの、古い発ガンの理解です。まず第一に、昨今は、発がんの少なくとも3分の1以上は、(B)「慢性炎症」による、と理解されています。これは、完全にAの計算外の事項ですから、従来の放射線理論、従来の線量計算が、見積もりを大きく外してしまう原因となります。繰り返しますが、従来の、臓器総量で、放射線の影響を平均化する計算では、極端に、この、慢性炎症の影響を見落としてしまうでしょう。慢性炎症が起こる一つのトリガーとして、その臓器の細胞が、accidentalに細胞死を起こす。これが繰り返されると、その局所で、慢性炎症の温床ができることになります。しかし、従来理論は、「細胞が死ねば、むしろそれはガン化しないので安心」という論調に則っている側面があり、不適切です。さらに従来理論の駄目出しを続けます。2010年代以降、実はガンnicheの概念、組織のniche、微小環境の理解の進歩とともに、(C)微小環境の発がんへの関与、微小環境コミュニティからの逸脱が発ガンを促進する、というメカニズムが、発ガン過程での議論として、急速に発展してきました。これは、私も、当理論の最近の補足事項である、「その他の予測症状」で述べている通りです。セシウム微量内部被曝により発ガン率が上がる可能性の議論をするなら、極めて親和性の良い発ガンのメカニズムです。

 

これら、A, B, Cは、単純に線形に足し合わせればいいというものではなく、複雑に絡み合っているはずですが、あくまで、議論のたたき台として、次のように式を書いてみます。

 

確率的影響=A + B + C  ーーーー(式1)

 

A項 = 放射線による遺伝子への直接影響(従来の線量計算の延長線上だが、正しくは、放射線による影響というよりは遺伝子近傍で電離された活性酸素などによる影響なので、核種による差の見積もりは改定する必要がある。これは、矢ケ崎先生らが、現行理論による見積もりを批判しておられる通り)

 

B項 = 慢性炎症による発ガン寄与(トロトラストによるトリウム内部被曝などの場合、肝網内系への沈着による慢性炎症を介し発ガン確率を上げていると考察できる。また、放射能汚染粉塵による呼吸器系への慢性炎症もこれに準じる)。これは、A項とは切り離して論じなければならない。現行理論では評価できていない。(注1)

 

C項 = 微小環境からの逸脱により促進される発ガン。微量セシウム内部被曝による悪性腫瘍は、このメカニズムの可能性が想定される。AとBからは切り離して論じる。現行理論では全く評価できていない。

 

 

では、この、A項、B項、C項の大きさの比較について。

急性大量外部被曝をする、原爆などのモデルでは、A>B,Cなのであろう。原爆などの疫学調査で、被曝線量の大きい調査対象が、線量依存的に発ガンが見られる傾向が観察されるのは、一つは、このためでしょう。

 

一方、慢性微量被曝の問題では、多くの動物モデルの実験では、外部被曝によるAは、無視しうるほど小さいことが実験的には分かっている(B,C>A)。したがって、特に微量の内部被曝においては、B項、C項からの影響を論じなければならない。

 

そもそも、現行の放射線理論で、「線量」を計算したい、(しかも、外部被曝内部被曝も、足しあわせましょうなどという無茶を推奨してしまう)、というインセンティブは、楽に、手っ取り早く、単純明快に、影響の見積もりを出したい、という、楽な計算への憧れがあります。式1のように、複雑化した式に、存在意義があるのか、といえば、おそらく、議論のため、以外の目的では、あまり価値はないと個人的に判断しています。

 

したがって、私の判断としては、A項>>B項、C項となるケースでは、従来の遺産を引き継げばいいし、逆に、B項やC項が重要となる被曝形態においては、もはや、線量計算は止めましょう、というスタンスです。つまり、慢性炎症が重要になる、トロトラストによるトリウムなどの核種の影響や、放射性汚染粉塵の付着による呼吸器系への炎症は、切り離しましょう。そして、当理論の議論するところの、微量セシウム内部被曝によるCの影響も、完全に切り離しましょう、ということです。

 

 過去の放射線医学理論は、A項のみで発ガンが論じることができる、という仮定のもとに築き上げられてきました。時代が経ち、医学的データが蓄積し、科学が進歩するにつけ、当然、観察現象と理論が合わ無い、という綻びが、時々生じてきます。案の定、現行の放射線理論も、核種や被曝形態によっては、影響の見積もりの過小評価を認めるという作業を繰り返してきているのですが、残念ながら、結局理論の大幅な見直しには至らず、核種による係数をその都度、時々、修正するという、とりあえずの対処をしてきているわけです。

例えてみると、複素平面(注2)で考えなけらばなら無い数理現象を、無理やり、実数軸のみの一元的な数式に落とし込むような、そんな理論構築を、金科玉条にしてしまっているわけです。 

 

 

<<過去の、原爆被害などからの見積もりでの交絡因子の見落としについて>>

旧来の放射線理論を自己強化してしまうことになった、原爆後の疫学調査は、内部被曝に関する推定には、大きな異論がある。

 

戦中、戦後は、現在ほどは流通が発達していなかった。物資の不足もあり、基本的には、食料は地産地消であった。したがって、外部被曝と、食物からの内部被曝は、極めて高い相関関係にあった。また、降り注いだ放射性プルームは、風向きが大きなファクターとなるものの、風が極端に強い(東日本大震災の檻の3号機の爆発時のような、陸-->海への風など)という状況がなければ、基本的に、爆心地からの距離に依存するため、これも、外部被曝と極めてよい相関関係となってしまう。したがって、過去の原爆における疫学調査というのは、A、B、Cの間の交絡因子の可能性を論じることのできるスタディは存在しないし、解析は不可能だと考えています。

 

 

 

(注1):B項に関する、「慢性炎症」という考え方について。これはすでに医学者の間には定着して久しい、発ガンのある重要なパターンに関する考え方となっていますが、歴史的にずっとそうだったわけではありません。なぜ、現行の放射線理論では全く評価できていないかの矛盾を、きちんと説明のできる識者は、意外に少ないのではないでしょうか。このあたりのことを、別項にて補足します。

(注2):新しい考え方は、少なくともA項、B項、C項の3項以上で考えるのが現代的な発ガンの理解とする考え方なので、複素平面からさらに発展させ、4元数などの次元に拡張した捉え方をしています。一元的な考え方からは、そろろろ進歩し、発ガンに関する考え方も、刷新した方がよいのではないかと、はたから見ていて感じます。

 

 

 

 

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