内部被曝を考察するブログ

2年近く前に骨折をしてから中断していた自転車通勤を再開しました。良い季節ですね。皆様がご健康でおられ、良い一週間でありますように。

「内部被曝」という言葉の問題点

このブログでは、「内部被曝」という問題に関する、新しい視点を提供し、今までの放射線医学の、特に、「内部被曝」の影響の見積もりの、どこに見落としがあり、どのような過小評価になっていたのかを、主にはCs137、そして、時折、C14やトリチウム、補足として放射性ヨウ素や放射性ストロンチウムに関して、論じてきました。

 

しかし、大筋の議論の完成させるにあたり、当初より抱いていた、「内部被曝」という言葉のもつ、正確ではないニュアンスへの違和感をあげておきたいと思います。この「被曝」という言葉のせいで、誰もが誤誘導にあってしまい、物事の本質に目くらましをされていた点に関し、指摘しておきたいと思います。

 

このブログ全体を通して論じている通り、Cs137のごく微量の「内部被曝」で問題になる、一つの大きなパラメータの見落としは、その「物性」の変化でした。トリチウム、C14など、ほぼ、このブログで取り上げた内部被曝核種での、旧来理論での見落としも、やはり、崩壊時の物性の変化でした。

 

「被曝」という言葉が用いられた瞬間に、どうしても、誰もが、「出てくる放射線」の方に誘導されてしまい、残された原子核の、物性としての変化の重要性を忘れてしまいがちになります。

 

したがって、このブログで取り扱ったテーマは、今後の、新しい、放射線医学の重要分野として、黎明期を迎えることになると思いますが、その暁には、「内部被曝」という言葉から進化し、より、これら一連の現象の本質を捉えるような専門用語を定着させて行かなければなりません。「放射性核種取り込み時の物性変化学」「放射性核変換による生体への影響」「放射性核変換時の物性化学・生化学・生物学・医学」「放射性核種内部崩壊医学」「放射性物質内部核変換物性医学」、、、、もう少し、適切なタームを思いつきそうな気もしますが、今はこのくらいで。

 

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線量計算の新しい考え方への提言と、数式の例

2/23/2013執筆、11/19/2015加筆、12/30/2019 Yahoo Blogより移行公開

 

みなさん、よくご存知のことかと思いますが、現在の放射線理論は、確率的影響、確定的影響という具合に、放射線の影響を便宜的に分けて、それぞれを、別個に論じていきます。現行の理論は、主に放射線物理学的な考え方をベースにし、確定的影響にしても、確率的影響にしても、被曝した「線量」から、単純な計算で影響を見積もることができだろう、という仮定のもとに築き上げられています。

 

ですが、その仮定は部分的には正しいように思えるもの、実はある種の内部被曝などには間違っているのではないか、「線量」の計算は、あのままでは、まずいのではないか、という批判が、方々からなされていることは、これも耳にされたことのある方も多いことかと思います。

批判の最大の引き金となったのは、チェルノブイリ事故の際、「線量」の計算からは、とても考えられないと思える健康障害のレポートが相次いだ事です。そして、なぜ、そのような、線量からは説明のつかない事象が起こるのかは、未だに綺麗には説明されていないままです(僭越ながら、当理論を当てはめると、かなりの部分に、ある程度一貫性のある説明がつく事になると考えています)。

また、現行の放射線理論信奉派は、様々な理由をつけ、線量計算に合わない調査は、切り捨ててきました。結果、理論に合わないデータが切り捨てられ、理論が自己強化をしてしまう、という、トートロジーに陥ってしまっているのが現状で、学問としては、最も気をつけなければならない、御法度の事項です。

 

ところで、私個人の、現行理論に対するスタンスを書いておきます。従来の放射線医学は、幾つかの前提事項を満たさない被曝形式においては、矛盾や問題が多すぎるため、このブログでの議論においては、従来の放射線医学の考え方に則った計算は、一切を避ける、という方針で、セシウム内部被曝の問題などを論じています。とは言っても、従来の理論を避けてばかりいては、どこに不正確さがあるのか、どのように考えを正していけば良いのか、具体的な議論が進みませんので、この項においてのみ、従来の放射線理論の考え方である、「確定的影響」「確率的影響」「線量」などの考え方について、触れておきたいと思います。

 

 

多くの方には、蛇足的にはなりますが、まず、基本的事項を書いておきます。確定的影響は、細胞、または組織の障害の問題。鼻血の問題などは、鼻粘膜局所における、確定的影響ですね(ただし、従来理論の計算方法は明らかに間違っていますが。特に、臓器総量で計算をするやり方、RBEでβ=γ=1とおくパラメータの計算方法。ちなみに、前者の、臓器総量vs局所集中の問題は、時折、さすがに放射線物理学者も、おかしいと思う人はいて、1940年代から問題提起されては否定され、という歴史が繰り返されています。直近では1970年代の有名な論争があります。しかしながら、1970年当時は、不幸な議論の転帰と誤誘導により、しばらく議論が後退してしまった時期がありました。別項にて詳しく論じます)。

 

さて一方、確率的影響の代表的なものは、発ガンです。おそらく、特に東日本大震災原発事故後は、本邦でも、放射線の議論の多くは、この、確率的影響がどうだとか、という話を中心に議論されてきたのではないでしょうか。

 

そこで、この項では、旧来の線量計算の考え方に則り、発ガンの問題を論じていきますが、旧来の線量計算の考え方や、計算方法の、どこに見落としがあり、どのように正していけばいいのかを論じるために、あえて、旧来の線量計算方法の土俵の上で、式を吟味していきます。

 

別項で論じたように、そもそも、現行の放射線理論が、臓器においての「吸収線量」をベースに計算していく背景に、(i) 放射線の組織吸収エネルギーが、組織の細胞のDNAの変異をもたらす。(ii)そして、変異の総量は、組織全体で平均すればいい。さらに(iii) 遺伝子変異のみを論じていれば、発ガンの議論は事足りる。という、少なくとも3つの不正確な考察に基づいています。

 

現行理論派に言わせると、こういった仮定は、過去の疫学調査のデータで支持されているそうなのですが、交絡因子の見落としと、循環論法に陥っている可能性が高いというのが、私を含め、批判派の指摘です。

 

議論を始める前に、まず気をつけなければならないのは、従来の線量計算は、例えば発ガンなどの確率的影響を論じるための「便宜的防護指標」ということだけであって、この、線量計算を持って、発ガンが必ずしも(概算としてだけのレベルであったとしても)見積もれるわけではない。核種や被曝形態によって、桁違いに見積もりが外れる被曝がある可能性を、排除するものではない、ということ。にもかかわらず、従来の理論信奉派の方が、時に「xxxmSv程度では、yyyの健康障害は考え難い」という論調に使ってしまってきているのは、まさに、最も気をつけなければならない、循環論法による理論強化の一例で、放射線理論のもたらした、 負の遺産の一つと考えています。

 

さて、少し議論を始めてみます。2013年時点で、どう「発ガン」を捉えればいいのか。まず、現行理論の発想の問題点の一つなのですが、発ガンにおいて、(A)遺伝子への放射線のアタックを考えれば議論が済むという発想は、1980年代前半までの、古い発ガンの理解です。まず第一に、昨今は、発がんの少なくとも3分の1以上は、(B)「慢性炎症」による、と理解されています。これは、完全にAの計算外の事項ですから、従来の放射線理論、従来の線量計算が、見積もりを大きく外してしまう原因となります。繰り返しますが、従来の、臓器総量で、放射線の影響を平均化する計算では、極端に、この、慢性炎症の影響を見落としてしまうでしょう。慢性炎症が起こる一つのトリガーとして、その臓器の細胞が、accidentalに細胞死を起こす。これが繰り返されると、その局所で、慢性炎症の温床ができることになります。しかし、従来理論は、「細胞が死ねば、むしろそれはガン化しないので安心」という論調に則っている側面があり、不適切です。さらに従来理論の駄目出しを続けます。2010年代以降、実はガンnicheの概念、組織のniche、微小環境の理解の進歩とともに、(C)微小環境の発がんへの関与、微小環境コミュニティからの逸脱が発ガンを促進する、というメカニズムが、発ガン過程での議論として、急速に発展してきました。これは、私も、当理論の最近の補足事項である、「その他の予測症状」で述べている通りです。セシウム微量内部被曝により発ガン率が上がる可能性の議論をするなら、極めて親和性の良い発ガンのメカニズムです。

 

これら、A, B, Cは、単純に線形に足し合わせればいいというものではなく、複雑に絡み合っているはずですが、あくまで、議論のたたき台として、次のように式を書いてみます。

 

確率的影響=A + B + C  ーーーー(式1)

 

A項 = 放射線による遺伝子への直接影響(従来の線量計算の延長線上だが、正しくは、放射線による影響というよりは遺伝子近傍で電離された活性酸素などによる影響なので、核種による差の見積もりは改定する必要がある。これは、矢ケ崎先生らが、現行理論による見積もりを批判しておられる通り)

 

B項 = 慢性炎症による発ガン寄与(トロトラストによるトリウム内部被曝などの場合、肝網内系への沈着による慢性炎症を介し発ガン確率を上げていると考察できる。また、放射能汚染粉塵による呼吸器系への慢性炎症もこれに準じる)。これは、A項とは切り離して論じなければならない。現行理論では評価できていない。(注1)

 

C項 = 微小環境からの逸脱により促進される発ガン。微量セシウム内部被曝による悪性腫瘍は、このメカニズムの可能性が想定される。AとBからは切り離して論じる。現行理論では全く評価できていない。

 

 

では、この、A項、B項、C項の大きさの比較について。

急性大量外部被曝をする、原爆などのモデルでは、A>B,Cなのであろう。原爆などの疫学調査で、被曝線量の大きい調査対象が、線量依存的に発ガンが見られる傾向が観察されるのは、一つは、このためでしょう。

 

一方、慢性微量被曝の問題では、多くの動物モデルの実験では、外部被曝によるAは、無視しうるほど小さいことが実験的には分かっている(B,C>A)。したがって、特に微量の内部被曝においては、B項、C項からの影響を論じなければならない。

 

そもそも、現行の放射線理論で、「線量」を計算したい、(しかも、外部被曝内部被曝も、足しあわせましょうなどという無茶を推奨してしまう)、というインセンティブは、楽に、手っ取り早く、単純明快に、影響の見積もりを出したい、という、楽な計算への憧れがあります。式1のように、複雑化した式に、存在意義があるのか、といえば、おそらく、議論のため、以外の目的では、あまり価値はないと個人的に判断しています。

 

したがって、私の判断としては、A項>>B項、C項となるケースでは、従来の遺産を引き継げばいいし、逆に、B項やC項が重要となる被曝形態においては、もはや、線量計算は止めましょう、というスタンスです。つまり、慢性炎症が重要になる、トロトラストによるトリウムなどの核種の影響や、放射性汚染粉塵の付着による呼吸器系への炎症は、切り離しましょう。そして、当理論の議論するところの、微量セシウム内部被曝によるCの影響も、完全に切り離しましょう、ということです。

 

 過去の放射線医学理論は、A項のみで発ガンが論じることができる、という仮定のもとに築き上げられてきました。時代が経ち、医学的データが蓄積し、科学が進歩するにつけ、当然、観察現象と理論が合わ無い、という綻びが、時々生じてきます。案の定、現行の放射線理論も、核種や被曝形態によっては、影響の見積もりの過小評価を認めるという作業を繰り返してきているのですが、残念ながら、結局理論の大幅な見直しには至らず、核種による係数をその都度、時々、修正するという、とりあえずの対処をしてきているわけです。

例えてみると、複素平面(注2)で考えなけらばなら無い数理現象を、無理やり、実数軸のみの一元的な数式に落とし込むような、そんな理論構築を、金科玉条にしてしまっているわけです。 

 

 

<<過去の、原爆被害などからの見積もりでの交絡因子の見落としについて>>

旧来の放射線理論を自己強化してしまうことになった、原爆後の疫学調査は、内部被曝に関する推定には、大きな異論がある。

 

戦中、戦後は、現在ほどは流通が発達していなかった。物資の不足もあり、基本的には、食料は地産地消であった。したがって、外部被曝と、食物からの内部被曝は、極めて高い相関関係にあった。また、降り注いだ放射性プルームは、風向きが大きなファクターとなるものの、風が極端に強い(東日本大震災の檻の3号機の爆発時のような、陸-->海への風など)という状況がなければ、基本的に、爆心地からの距離に依存するため、これも、外部被曝と極めてよい相関関係となってしまう。したがって、過去の原爆における疫学調査というのは、A、B、Cの間の交絡因子の可能性を論じることのできるスタディは存在しないし、解析は不可能だと考えています。

 

 

 

(注1):B項に関する、「慢性炎症」という考え方について。これはすでに医学者の間には定着して久しい、発ガンのある重要なパターンに関する考え方となっていますが、歴史的にずっとそうだったわけではありません。なぜ、現行の放射線理論では全く評価できていないかの矛盾を、きちんと説明のできる識者は、意外に少ないのではないでしょうか。このあたりのことを、別項にて補足します。

(注2):新しい考え方は、少なくともA項、B項、C項の3項以上で考えるのが現代的な発ガンの理解とする考え方なので、複素平面からさらに発展させ、4元数などの次元に拡張した捉え方をしています。一元的な考え方からは、そろろろ進歩し、発ガンに関する考え方も、刷新した方がよいのではないかと、はたから見ていて感じます。

 

 

 

 

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最新の医学研究でもわかっていないパラメータ

11/19/2015執筆、12/27/2019公開

 

当理論は、なるべく、できる範囲でのパラメータに関しては、定量的考察をし、パラメータのまだ存在しない分野に関しては、それでも出来うる限りの考察の方向性を書くという方針で議論を進めてきています。当理論の根幹は、微量の内部被曝による放射性セシウムが崩壊時に、心筋細胞などのカリウムチャネルの一つ、Kir(内向き整流カリウムチャネル)に嵌頓した状態で崩壊すれば、このイオンチャネルを、オープンの状態に壊す(オープンの状態に固定する)ことが予想される、という事を議論しています。

おそらく、当理論を受け入れがたいという方の中には、次のような批判的感覚を持っておられる方も多いのではないでしょうか。

 

<<批判意見1>>セシウムがいくら心臓に蓄積したからといって、セシウムが全部、しかも永久にKirチャネルに嵌まり続けるわけではない。大部分は、おそらく細胞質中にあるはずで、50Bq/kgなんて、こんなにわずかなセシウムが、心臓の症状が出るくらい優位なカリウムチャネルを壊すわけがない」

 

これは少々難題ですが、概算として見積もりを論じていきます。この項の議論では、果たして、体重あたり50kg/Bqという「微量の」Cs137が、心臓の機能に影響を与えるほどの量なのかどうかを、議論していきます。

 

まず、第一に、多くの方が見落とされてきているデータとして、体重総量あたり、50Bq/kgというのは、決して、心臓でも50Bq/kgなのではない、という点です。

 

この辺りもBandazhevskyの立派な科学的貢献の一つなのですが、(なぜか理由は、今のところ誰にもわからないのですが)体重総量50Bq/kgという内部被曝量は、心臓では500Bq/kg以上の内部被曝になってしまうのです。つまり、臓器別に、Cs137を溜め込みやすい臓器がある、ということ。Bandazevskyは、これを、ヒトの剖検でもデータを取っていますし、また、実験動物でもデータを出していますので、再現性の高い知見だと考え、私はこのデータを受け入れています。

 

まず、第1のまとめ。

 

体重総量で50 Bq/kgは、心臓では500 Bq/kg以上の内部被曝であり、10倍ほど、心臓に濃縮されている。

 

さてこの、10倍濃縮。そして臓器ごとに分布が異なる、という事柄。この不思議な、Csの臓器別分布、臓器別濃縮に関して、なぜそんな不思議な事が起こるのか、うまく説明をされておられる方を、寡聞にて存じません。

 

ですが、この謎の答えに迫るためのヒントはいくつかあると考えています。まずは、正確に概算をしなおしてみます。体重の何割かは、細胞外液(血漿成分、組織間液、分泌液)で成り立っています。(そして、細胞外液中にはCsイオンは少ない事がわかっています(細胞内外比=40:1))それをざっと体重から差し引いて、見積もりをし直します。循環血漿量は、だいたい、体重の20分の1、体重60kgの成人で約3Lです。そして、この血漿も含め、細胞外の体液量は、体重の約20%です。これに、骨(骨髄などの細胞成分を除くミネラル部分)や結合織など、あとは食物や老廃物などを加えたものを、体重から差し引いたものが、実質組織重量(細胞成分総量)となります。体重の6-7割程度でしょうか。すると、体重あたり50Bq/kgという数字は、実質組織重量に換算すると、70-80Bq/kgということです。したがって、以上を換算してみても、それでも、心臓では6-7倍の、他組織より過剰の蓄積が行われている、とみなすことができます。

 

話はそれましたが、本題に戻り、一体、この、心臓でのCsの蓄積は何を意味しているのでしょうか? 

 

ちなみに、Csイオンの挙動は、一般的には、「細胞の中に入る方のkineticsは、Kイオンと遜色なく、ポンプと言われる分子などにより、スムーズに入る」とされています。

一方、よく耳にする言説として、「にもかかわらず、細胞外に出て行くスピードは遅い」ので、「Kに比べて体内に溜まりやすい」云々、という説明を、事故後、方々で見かけたような気がしています。

 

しかし、もしもこの説が正しいのであれば、細胞内外のCsイオンの分布は、Kイオン(内外比=40:1)とは幾分か異なり、もっと細胞内に高濃縮されているはずです。しかしながら、複数のデータで、いずれのデータも、Csイオンの細胞内外比は、Kイオンと変わらず、40:1というデータばかりなので、この、「Csイオンは細胞外に出て行きにくい」という部分は、注意深く吟味しなければならないのではないかと考えています。

 

では、いったい、Kイオンと全く同じく、細胞内外比40:1の分布を示すCsが、どんなカラクリで、臓器別に、高濃縮されたりすると言うのでしょうか?不思議ですね。そもそも、どんな臓器であれ、どんな細胞であれ、調べられた範囲においては、Kの細胞内外比はすべて40:1です。もしも、Csの存在箇所が、Kと同じく、細胞内・細胞外の2つの分画のみで全てを尽くしているのであれば、どう考えても、臓器別で6-7倍の濃縮という現象は起こりえません。

 

臓器ごとにCs137の蓄積量が異なる、ということは、当然、この細胞内外存在比の40:1という数字以外に、カウントに入っていない、見落とされている分画があるわけです。(あるいは、細胞ボリュームと、細胞 間質液量の比が、臓器ごとに大きく異なる、など)。

 

たとえば、先ほど触れた、血漿成分や、組織間液のボリュームの問題。しかし、Bandazhevskyがデータを取るときに、心臓からはある程度脱血をして組織分析をしているはずですし、心臓が他の臓器よりも組織間液が格段に多いなどということはあり得ません。何か、他に見落としている分画があるのでしょうか?

 

私見になりますが、別項でも論じているように、Csイオンの場合、(i)細胞内、(ii)細胞外、という分布の他に、(iii)Kir結合、という第3のstateを加えた、3つの群の間で、平衡状態をなしているために、(細胞内外比がKと同じ40:1であるにもかかわらず)kineticsも、組織分布も異なる可能性、ということを考えています。(一方、Kイオンは、細胞内・細胞外という2つの分画間のみの平衡状態を考えればよく、すべての臓器でK含有量は同じになります)。そしてCsの臓器別分布に関しては、Cs結合性のKir(たとえばKir2.1など)の発現が多ければ多いほど、その臓器には、Csが多く分布する、と。(特にBandazhevskyが議論するところの、ごく微量のCs内部被曝問題のように、Csイオン濃度がKir2.1存在量に比べても、極めて低い場合には、おそらく、(iii)の分画が、組織別蓄積量の差に、大きく効いてくるのでしょう)

 

 

ここから、3通りの、異なる計算方法で、ある任意の時点で、心筋のKir2.1に結合しているCs137の量を概算してみます。ただし、体重あたり50Bq/kg、すなわち、心臓重量あたり500Bq/kgという内部被曝量を想定しています。

 

<<計算1>>

Csイオンの場合、(i)細胞内、(ii)細胞外、(iii)Kir結合、3つの群の間で、平衡状態をなしているということ、そして心臓にはCs結合性のKir2.1が大量に発現しているというが、体重総量あたりの50Bq/kgと、心臓内部被曝量の500Bq/kgの違いを生んでいる原因だと判断し、500-80 = 420 Bqが、Kir結合分、と見積もると考える。

したがって、この見積もりの場合、心臓では420Bq/kgものCs137が任意時間にKir2.1などに結合しているとみなすことができる。つまり、1秒間に心臓では、420個/kgのopen固定Kirが発生していることになる。

オープン固定Kirの半減期は格段に長いであろうという考察は、別項に述べた通り。

仮に、open Kirの半減期が数日から1週間弱程度とすると、平衡時には、

420 x 6 x 24 x 60 x 60 x 1.443 = 3.1 x 10e8個/kgという個数になる。

心臓の細胞数は4.3 x 10e10/kg x 0.3kg = 1.3x10e10個だから、

約40個に1個の細胞が、open固定Kirを持つことになる。

心臓の心筋細胞索(注:直列につながっている細胞の束)は、全長で2cm(心室の厚み)ほどとすると、心筋細胞の長径は100umだから、1列に200個の細胞がある(斜めに索がそうこうしているであろうことを考えると、実際にはもっと多い数となるであろう)。

つまり、この場合、1列の中に、2.5 個以上の遅延細胞を生じていることになり、かなりの遅延細胞量と見積もることができる。(仮にオープン固定Kirの半減期をもっと少なめに見積もって数日以下と考えても、1心筋細胞索に最低でも1個の遅延細胞の存在を見込む計算となる。逆に、別項に論じた半減期の長期化を強調し2ヶ月程度と見ることができるなら、約4個に1個の遅延細胞となり1列に25個以上もの遅延細胞の数となる)よって、心電図異常に至るに足る内部被曝量であると考察できる。

 

(注:心筋の直列接続)当理論の最初の時点からの着眼点の一つとして、心臓というのは直列のシステムである、という点です。ここが従来の放射線医学が見落としていた最大の盲点の一つです。従来の放射線理論、放射線医学は、すべての考察を臓器の被曝総量、または平均値でしかとらえておらず、並列システムの考え方に依っています。ですが、細胞のシグナル遅延、システムとしてのタイミングの遅延という点を考察する当理論の考え方で、初めて、直列接続により、ごく微量での細胞異常でシステムに障害が起こるという定量的議論への道が開かれることになりました(第2の注:細胞のタイミングが遅れるだけで、細胞死を論じているわけではないことを忘れないでください)。心臓の心筋細胞は、心室壁の厚み約2cm内外の中に、直列伝道のシステムを作っていて、心筋細胞索と呼ばれます。直列接続を扱った記事1記事2をご参照ください。

 

 

<<計算2>>

心臓500Bq/kgのCsを、仮に、上記の(i), (ii), (iii)の3つの平衡状態という概念を無視して、すべて、細胞内外の分布と仮定して計算してみる((iii)の状態がないというのはありえないのですが、理論に不利な計算として、やってみます)。この場合、細胞内外比は40:1なので、細胞外液中のCs137の濃度は、約12Bq/kgである。Picones, A.らのpatch clampの論文(2001, Byophys, J.)によると、

Kb[Cs+]/Ku=0.419 (ただし、細胞外液中[Cs+]=10uMの時)

したがって、CsイオンとKir2.1チャネルの結合定数は Kb/Ku = 4.19 x 10e4 [M-1]

今、細胞外液中のCs濃度は、極めて少ない。コールドのCsイオンの存在を含めても(Canteno, et al)、1.13pMと極わずか。

とすると、ほとんどの、細胞外液中の、近傍のCsは、Kir2.1に結合していると想定し、試算を試みる。

この場合、open固定Kir半減期を2ヶ月と仮定すると、約500個に1個の心筋細胞が、遅延していることになる。

つまり、2.5本の心筋細胞索のうち1本が遅延している計算となる。

ただ、やはり後になって考えてみると、(2)の計算方法は、計算し始めの方向性で、細胞内外のCs分布比のことのみを想定し、Kir結合の分布を想定しない、という前提は、やはりあまりにも無理があると考えられます(そのような分布が正しければ、やはり最初に述べたように、組織ごとのCs分布の大きな違いというのは生じ得ないわけですから)。おそらくですが、(2)はかなり過小評価になっていて、(1)の方向性での計算が、一番、方向性としては正しいのではないかと考えています。

 

<<計算3>>

心臓の、脱分極、再分極のサイクルでの、イオン電流の大雑把な見積もりから試算してみる。(正確なデータを仕入れておけばよかったのですが、以後、少し数値の推定値を使用します)

Naの平衡電位が、脱分極時に40mV-50mVを目指すとすると、Naiも、静止時20mM-30mMくらいまでは、上がるのだと想定。

すると、おそらく、再分極に際して、ほぼ、同じ程度のKも移動させることになるはず。濃度で、ネット20-30mM分をfluxとして細胞外に出す。この細胞外に搬出したKは、あとでゆっくりと、Na/K/ATPaseや、Kirで汲み入れる。仮に、Kirが、約3分の1から半分を担っていると仮定してみると、

10mM-15mM変動させる分のKを、細胞内に汲みいれる。

仮に、10mM変動分をKirが通すとする。即ち、Kイオンのうち、14分の1が1サイクルに、Kirを通過するとする。

KとCsの挙動が類似していると仮定して試算すると、ホットのCsも、14分の1が1サイクル(=1秒)に通過するとすると、1個細胞あたり、1/14 x10e-8 Bq分が通過。いずれのCsイオンも、必ず、一定時間嵌頓し、外れる。Csイオンが多ければ、この限りではないが、コールドのCsも含めても、Csの存在比は小さいので、この仮定で概算を続ける。平均して、任意の時間にCsイオンが嵌頓している確率は、patch clampのKir2.1の電流プロファイルを見ると、phase4で30%くらい。1サイクルのうち、phase4は、約半分しめるとすると、全体の中では15% (=7分の1)の確率。

したがって、1個あたりの細胞で、1/14 x 1/7 x 10e-8Bq、心臓全体では、任意の時間に嵌頓しながら崩壊しているCsの個数は、1秒(1サイクル)あたりに、1/14 x 1/7 x 500 (Bq)/kg

つまり、1秒あたりに、生成されるopen固定Kirチャネルは、500/(14x7) 個/kg

心臓重量を0.3kgとすれば、500/(14x7x3) = 1.7個/sec (大人の心臓あたり) という、オープン固定率。

open固定Kirの半減期を2ヶ月と仮定すると、平衡時に存在するオープン固定Kir個数は、1.7 x 2 x 30 x 24 x 60 x 60 x 1.443 = 1.2 x 10e7 個(心臓あたり)

という、存在量。心臓の細胞個数は、4.3 x 10e10/kg x 0.3kg = 1.3x10e10個だから、

約1000個に1個の割合で、オープン固定Kirが存在する。

5本の心筋細胞索に1本が遅延していることになる。           

 

 

以上、前提事項をいくつか置いた上での概算ですが、(2)と(3)は、少し、理論にあえて不利な仮定を置いて、厳しめの試算を行いました。それでも、桁としては、影響が出るであろうと見なせる桁からはそれほど大きく外れている桁と言うわけではないと感じます。

 

(備考)後付けになって、(3)の計算方法を自己批判してみますと、CsがKir2.1を通過する際の、嵌頓確率は、おそらく正しくありません。かなり過小評価になっているはずです。あのデータは、細胞外液中のCsイオン濃度10uMのもと、パッチクランプで単一チャネルのコンダクタンスを測定したデータから、Csブロック時間、電流通過時間の分布の割合から導いたものですが、そもそも、(a) 任意の単一チャネルにおける、Cs結合時間の割合と、(b)任意の単一Csイオンが、Kir2.1チャネルに嵌頓している割合、は、似て非なる、全く別のパラメータです。たとえ話を出しますと、(i) クラスの中の、任意のある女子が、男子とお付き合いをしている期間(の割合)と、(ii) クラスの中の、任意のある男子が、1年間のうち、女子とお付き合いをしている期間(の割合)、は、全く別ということがわかっていただけるでしょうか?チャネルを女子、Csイオンを男子、とおけば、(a)は(i)に相当し、(b)は(ii)に相当します。論文で得られるパラメータは(a)や(i)の方で、欲しいパラメータは(b)や(ii)の方です。

さて、論文では、細胞外液中のCsイオン濃度は10uMと、比較的Csイオンが多い状態での実験でした。(女子に比べて、それほど男子は稀ではない、という状況)。しかし、実際のCsイオン濃度は、コールドも含め、1.13pMというデータがあります(Canteoら)。これは、全Kir2.1に対しても、砂防外液の分画ではCsが1個あるかないか、という量に相当します。例えば、1000人のクラスに女子ばかり。男子は一人いるかどうか。その状況で、(i)と(ii)のたとえ話を思い出してください。(i)の割合と、(ii)の割合が、桁違いに異なってくるだろう、ということは感覚としてわかっていただけますでしょうか?ちなみに、CsイオンとKir2.1の結合力は強い、つまり、男子と女子は、大変、付き合いたがる、というのが前提です。

 

 

 

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phase3のこと、Kirのパラドックスとnegative slopeの関係、IKr, IKs, IK1の関係、遺伝子操作実験や薬理学的実験と恒常的オープンKirの本質的違いと整合性

11/19/2015執筆、12/27/2019公開

 

当理論は、微量の放射性セシウム内部被曝で、心筋症が起こるとするBandazhevskyのデータは、十分にあり得るだろうという定量的見積もりを試みていますが、その際、Cs崩壊時に、心臓のカリウムチャネルの一種であるKir2.1(またはKir2.2など)が、オープンの形に固定され、それは、内向き整流機能をもち、心臓の脱分極・再分極のサイクルの中の、ある相で、細胞外から細胞内にKイオンを流してしまい、不都合が生じる、という理論です。このブログの理論を受け入れにくいと感じるかたは、専門家の中にも多いことと思います。もしかしたら、たとえば次のような意見もあるのではないでしょうか

 

(先入観からの批判意見):「Kirが内向きだとは言うが、実際の心筋細胞では外向きにも働いている。オープンに壊れたKirが内向きにのみ働くというのは、都合が良すぎる解釈だ。」

 

確かに、Kirチャネルは、「内向き整流」チャネルとは呼ばれるものの、Kirチャネルの外向き電流も、心筋再分極第3相後半などでは、生理学的に重要な意味を持つ、というのが正しい知見です。しかし、当理論の結論を書いておくと、これらの批判を踏まえた上で、「いえ、やはり、Cs137崩壊時にできるopen固定Kirの影響としては、内向き整流機能をもつ群の考察のみで良い」と考えられます。

 

この議論に入るために、いくつか、Kirの基本事項を解説しておかねければなりません。

まずは、Kirの特性と、わかっていること、わかっていないことについて、整理してみましょう。

 

 

 

実は、Kirは、「内向き整流」チャネルとは言っても、図のように、膜電位が高めの時には、外向き方向に電流を流すことがわかっています。

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図:Kirイオンチャネルの、電位・電流プロファイル(I-Vカーブ)。横軸が細胞膜電位、縦軸が電流。実際のデータをトレースして作成した。分離したラットの心筋細胞をパッチ・クランプという電気生理学の手法にて測定。ただし、人為的な条件下での記録であることに留意。

 

内向き電流を流すのは、電気生理学の実験条件の中では、膜電位が完全に分極した時および過分極の時のみ(心筋第4相にあたる)、なのです。そして、批判意見に書いた通り、特に心筋の第3相では、実際に外向きK電流をKirが流し、心筋の再分極のコントロールに貢献しています。

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私も学生時代に始まり、様々な場で、心室心筋のK電流の模式図を目にしてきました。よくある書き方は、上の図の中段に挙げた教科書的説明の通りで、「IK1」という呼び方をする限りにおいては間違いとは言えないのですが、Kirの実際の挙動の総合的な理解となると、多かれ少なかれ、いろいろな図で説明の不整合が見受けられます。おそらく現在もっとも整合性のある説明図は、Kirの内向き電流のことを意識して書いている、上記の下段の模式図だと思われます(Nature Reviewなどの図を参考に、一部改変)。実際のKirの外向きコンフォメーションと内向きコンフォメーションは、分布が電位依存性(または微小環境依存性)に確率的に決まると考えられますので、Kir総体としての挙動は、古典的図と、新しい図の重ね合わせが正解だと思います。(なんだか、状態の存在が確率的とか、重ね合わせとか言うと、量子力学みたいですね!ただし、量子力学と根本的に異なるのは、量子力学の場合、ある量子の挙動が、確率的にしか決まらない、というのに対して、Kirの場合には、あるKir2.1が、ガッツリ開き型に確定すれば、しばらくずっと、そのフォーム(での開閉)に確定する。しょぼ開き型に確定すれば、しばらくずっと、しょぼ開き型(の開閉)、という具合に、一つ一つのKirチャネルは、確定的にタイプが決まる、という点です)。

 

ということで、Kirは、実は、「内向き整流」とは称されるものの、実際の心室心筋での生理的条件においては、内向きと外向きの、異なった2つの役割を果たしていることが分かっています。

 

ひとつ、後々、大変重要になってくるポイントで、このグラフで注目しておいていただきたいポイントがあります。phase1,2から、phase3初期にかけては、Kirによる電流は、完全にゼロ、となっています。これは、心筋が正常な脱分極・再分極のプロファイルを描くために、必須の要求事項で、Kirは、絶対にこの間に閉じておかなければならないのです(昔の方たちは、この間、Kirの開閉ではなく、Mgイオンなどの整流物質が、「栓」をすることで十分なのだと考えました。この古い考えに対する反駁は、別項で論じています。

さて、話を元に戻しましょう。Kirが、内向きにも、外向きにもKイオンを通す??話が少々複雑になってきましたね。そこで、Kirというチャネルの、「整流機能」というものに関し、少したとえ話も交えながら、詳しく解説をしてみたいと思います。

 

<<Kirチャネルの「整流機能」について>>

私は昔から、このKirの機能を説明する例えとしては、ラムネの瓶を想像すると、ちょうど良いのではないかと思っています。ボトルの内側が、ちょうど、細胞内腔。一気にボトルを逆さまにしてみてください。一気に下向きにすることで、ビー玉が完全に吸い口に嵌まり込み、ラムネはこぼれません。ビー玉の栓が邪魔になって、ラムネを飲むこともできません。ラムネの瓶を見たことのない世代の人は、みんな最初に、この間違いをやってしまいそうです(笑)。なんだよ、このボトル、ジュースが飲めねーじゃねえか!と、怒ってみたりして。でも、そんな、たとえビー玉が栓をしている時でも、ボトルに水を追加注入してやることはできますよね。ビー玉の栓は、可動性があって、一方向弁として働いているからです。これが、ラムネのビー玉による、内向き整流機能(内向きには流すことはできるけれど、外向きの流れには栓ををしてしまう)。

 

今度は、ラムネの瓶を、ゆっくりと斜めに傾けて、ビー玉を、ビー玉受けに引っ掛けてみてください。ラムネを飲むときは、皆さんそうされますよね?なぜラムネが飲めるか、というと、ラムネのビー玉が、出口にアクセスできなくて、栓をすることができないからです。つまり、整流機能が働けないので、外向きに液体が流れ得るわけです。

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図:ラムネの瓶を逆さまにした時と、ななめにしたときの比較図。それぞれのモードで、液体の流れの向きを矢印で示している。 (注:実際の整流機能はMg2+のほか、spermine, spermidineなどの細胞内ポリアミンという陽イオン様物質による、同様の栓効果も重要ですが、簡易模式図を目的としたため、単純化しています。)(人物像、ラムネの瓶ともに、他サイトからの借用を複製改変しました。扇風機は「いらすとや」様より)

 

Kirチャネルは、まさに、ラムネの瓶構造をしています。マグネシウムイオンやスペルミンと言われるペプチドが、ビー玉の役割。つまり、チャネル内部にはまり込んで、ストップ弁のように、逆向きの流れを防止してくれるからです。Kirチャネルが、ガツンと開いてくれれば、ビー玉がアクセスできて、流出防止栓をすることが出来、整流機能が働く。Kirの開きがしょぼいと、ビー玉は栓の場所にアクセスできず、弁は働かず、流出が起こる、と理解できます。

 

<<内向き整流カリウムチャネルKirの内向き電流について>>

さて、Kirの内向き整流機能。なんで、こんな面倒くさい制御をやっているのでしょうね?ひとつ分かっているKirの機能は、静止膜電位の維持という機能。心筋の脱分極、再分極の0-4相の図で言えば、第4相の静止膜電位のこと。正常の心筋細胞のKir2.1チャネルは、ここの電位を、深く保つのに役立っています。

Kirを阻害してしまうと、心筋細胞の静止膜電位が、かなりプラスの方に振れてしまいます(浅くなってしまう、という表現を使います)。静止膜電位は、細胞を「静止」させておくのに重要で、深ければ深いほど、細胞は安全に「静止」してくれますから、Kirによって、深い静止膜電位を保つことは、心筋の機能上、大変重要です。ここで、Kirが、内向き整流機能を持つことが、大きく効いてきます。Kirは、この時主に、内向き整流機能を発揮し、そして内向きにK電流を流すとき(タイプ)は、非常に大きなコンダクタンスを持ちます(電圧に対して大きな電流を流すことができる)。

 

さて、ここまでは、ラムネの瓶のたとえ話を考えていただければ、比較的簡単な話ですね。

 

話がここから、少しややこしくなるのですが、実は、Kirには、この、整流機能を持つポピュレーション以外にも、整流機能を持たないポピュレーションがあり、大きく2つに分かれます。不思議ですね。Kirの分子自体は、全く同じ、何一つ寸分違わぬ分子が、です。そればかりではなく(整流機能の有無という2つの分類だけでなく)、電気生理学的に、「ガッツリ開き型の高コンダクタンス(電流をたくさん流す)・モード」と、「しょぼ開き型の低コンダクタンス(電流を少ししか流さない)・モード」の2つの形状を取ることも分かっています。

 

ラムネの瓶を思い出してください。一気にガッツリと傾けた時には、ビー玉が栓をし、整流機能が働き、外向きには流れない。傾け方がしょぼく、斜めで中途半端な時は、ビー玉は栓としての部分にアクセスできず、整流器のは働かず、ラムネは外向きに流れ出る。

ちょっと余談的ですが、これらの2つのモードは(整流機能ありvsなしの分類にしても、高コンダクタンス・低コンダクタンスの分類にしても)、1つのKirチャネルに注目すれば、どっちかのモードで働くときは、ある程度固定されて、そっちのモードで(ガツンと開いていれば、ガツンと開いたまま、ショボければショボいまま)働き続けるようです。おそらくは、そのチャネルの置かれている微小環境により、この2つのモードの分布が、確定的に決まっているのでしょう。

 

重要なことに、構造化学的にも、2000代初頭に明らかにされた、Kirの構造解析実験からは、Kirが、この、ガッツリ開き型(PIP2結合型)と、しょぼ開き型(PPA結合型)の2つのフォームを取ることがわかっています。考えてみていただきたいのですが、ラムネの瓶と同じように、Kirも、整流機能としてMgなどが「栓」をするためには、整流機能部にMgイオンがアクセスしなければなず(172Dという場所です)、Mgイオンは、Kイオンに比べてかなり大きいので、チャネルがガッツリと開かないと、ストップ弁として然るべき場所に嵌り込めず、整流機能を発揮できない、というイメージは、わかっていただけるかと思います。

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図:Kイオンは、容易に水和水を「脱ぐ」ことが出来、Kチャネルを通過する時には、水和水なしのイオン半径(1.3オングストローム)が重要になるが、Mgイオンは、水和水を纏いたがるので、Kirの整流機能部に栓をする際にも、水和半径(4.2オングストローム)が重要になる。逆に言うと、Mgイオンが整流機能部にアクセスできるためには、Kirチャネルが、ガッツリと開かなければならない。

 

以上、Kirの2つのフォームに関してまとめます。Kirは、ガッツリ開き高コンダクタンス型と、しょぼ開き低コンダクタンス型の2つのポピュレーションに別れる。そして、それはおそらく(構造解析上のデータと照合すると)、細胞膜のPIP2に結合するのか、それ以外のリン脂質に結合するのかで(つまりチャネルの置かれる微小環境で)、グループ分けがされているはずである。ガッツリ開けば、栓物質(Mgやスペルミン)は、アクセスが容易で、整流機能を持ち、しょぼい開き方の時には、整流機能を持ち得ない、と理解される。(注:2015年の時点では、(i) 整流機能の有無、(ii)コンダクタンスの高低、(iii) PIP2結合vsPPA結合、という3つの議論間をつなぎ合わせる、確定的な実験はされていなかったはずですが、構造化学上、おそらくこの理解(ガッツリ開き=整流機能アリの高コンダクタンス型、一方、しょぼ開き=整流機能なしの低コンダクタンス型)で間違いないと考えられますので、当理論では、Kirの2つのconformationの間の関係性を、この理解の前提の上、進めていくことにします)。

  

さて、以上の、Kirの構造と機能に関する前提をご理解いただいた上で、当理論で扱う、「open固定されたKirチャネル」について。どんな性質が予想されるか、について。

 

別項で論じている通り、Cs137崩壊時には、Kir2.1などのチャネル内部のCs/Baの嵌頓部で、Cs/Baイオンを錯体中心とした、触媒化学反応が、165Serと169Cysの-OH基、-SH基の間で起こり、macrocylizationという、分子内脱水結合がおこると予想できます。すると、そのα-helix部は、折れ曲がりヒンジのGlyの部分で、上方に折れ曲がり、上から見て反時計回りに回転します。これは、Kir2.1が、ガッツリと開く時の3次元構造変化と全く同じで、従って、Cs崩壊時に起こるKir2.1の変化としては、Kir2.1も、ガッツリ開き、高コンダクタンス、整流機能アリ、の構造に固定されると想定できます。

 

そして、これもまた別項で述べているように再分極早期には、Kir2.1と行動を共にするNav1.5の機能のために、open固定されたKir2.1は、内向きにK電流を流すことになると想定できます。

 (蛇足になりますが、最初の図に出した、上記の電流ー電圧カーブ[I-V curve]は、人為的な条件で測定し、Nav1.5の働きがなくなるよう、細胞内外compartmentでのNaの濃度差をゼロにして測定していることに留意。)

 

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さて、ここまで、Kirの基本構造、整流機能の説明、そして、Cs137崩壊時のopen固定Kirの性質に関して議論しました。それを踏まえた上で、次の議論に進みたいと思います。専門家の中には、次のような懐疑的な見方をされるかたもおられるのではないでしょうか?この批判意見に対して、議論しておきたいと思います。

 

(先入観からの批判意見)「Kirをノックアウトしてやったマウスとか、Andersen症候群(Kirの遺伝子異常からQT延長になる遺伝性不整脈の病気)では、Kir機能阻害でQT延長。逆に、Kirの機能をマウスで強化してやれば、QT短縮になる。このブログの理論と全く逆じゃないか。ブログの理論は間違っているか、Kirチャネルの特性の基本的なことを勘違いしているのだろう」

 

Kirを遺伝子操作や、薬理学的操作で阻害してやると、実はQT延長になることが多いのですが、そのメカニズムは、内向きK電流ではなく、この、外向きK電流IK1が阻害されるために、再分極第3相が延長するためなのです(ブログの本文の理論と逆向きです)。複雑なので、こんがらがってきた方もおられるかもしれません。 でも、きちんとKirの特性を理解すれば、すべて整合性のつく話に落ち着きますので、解説を進めていきたいと思います。

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(注)実際には、IK1やIKrは完全にphase2に無関係というわけではなく、また、IKsもphase3に若干寄与しますが、簡便に模式図を理解していただくために、phase2からIK1, IKrを、phase3からIKsを削除しています。

 

正常のKir2.1の機能は、前述の、第4相の静止膜電位の維持のほか、図に示した通り、第3相におけるIK1に関与しています。これは、整流機能を持たない、低コンダクタンス型のKir2.1チャネル(しょぼ開き型)による働きで、ガッツリ開き型の整流機能アリのKir2.1ではないことに注意してください。整流機能ありのタイプはこの間、全く機能しないとされています(栓のため)。

 

薬理学的にKir2.1を阻害したり、Kir2.1をノックアウトしたり、Kir2.1の機能障害に至る遺伝子変異(LQT7)を持つ場合にQTが延長するのは、この、しょぼ開き型(整流機能を持たないフォームの)Kir2.1の、第3相の外向きK電流(IK1)が阻害されるために起こります(図表の3番目のカラム)。逆に、Kir2.1の機能強化をしたり、高発現を促したりすると、しょぼ開き型のためにIK1が増強し、QTは短縮します(図表の4番目のカラム)。(5番目と6番目のカラムは、あくまで参考事項としてLQT1,LQT2を並べただけで、Kir2.1の議論とは無関係です)。繰り返しますが、いくらKir2.1を阻害しようが、逆に強化しようが、正常の心筋では、phase1-3初期の間は、ガッツリ開き型(整流機能アリのフォーム)のKir2.1は、完全に閉じていて機能しないと想定される(Nav1.5との共挙動のため)ので、病態に関与してきません。また、たとえ第3相後半に(Nav1.5が完全にoffになりNaイオンとKイオンの共挙動の条件が無くなった後でも)、Kir2.1が生理的にオープンになった後でも、この時期は、正常のKir2.1の整流機能アリのフォームは、整流物質(Mgイオン、スペルミン)による栓のため、Kイオンを流しませんから、同じ議論になります。

 

ところが一方、当理論で想定しているのは、ガッツリ開き型の、整流機能を持つタイプのKir2.1が、常に開きっぱなしになる状態。この場合、Nav1.5との共挙動を考慮すると、第1相、第2相(乃至第3相初期)が、主な障害の時期となり、そして、当理論で議論しているように、ここでの内向きK電流のことを議論していかなければなりません。図の左から2番目のカラムに図示しているように、この場合、open固定Kirチャネルは、高コンダクタンス型として、Iksの阻害の方向に働くことが想定できます。

 

 

 

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LNT議論の功罪

 

11/8/2015執筆、12/26/2019 改定、Yahoo Blogなどより移行公開

 

原発事故以降、よく我々の耳に入ってくる議論として、「LNT仮説は正しいか否か」という議論があります。つまり、この議論がヒートアップしてしまう背景として、「100mSv以下の健康障害はあるのかないのか(問題視するほど大きなものなのか否か)」、そして、「低線量被曝による健康障害は、予想外に大きいのではないか、いやそんなことあるはずない」、など、かみ合うようで噛み合わない、どこか議論の歯車が、双方ずれてしまっているのではないかと案ずるような 、そんな議論の応酬の数々でした。

 

私個人的には、この、LNT云々の議論には、あえて参加しないようにしてきました。また、「低線量云々」という議論は、「低線量」というタームが出た時点で、それが、原発賛成派であれ、反対派であれ、現行理論信奉派であれ、批判であれ、いずれにも組しない、というスタンスで傍観しています。

 

そもそも、きちんとした議論をしたいのであれば、「低線量被曝」などという曖昧な語句は使用すべきではないのです。「低線量」という言葉を使用した時点で、外部被曝も、内部被曝も、K40による内部被曝も、Cs137も、ヨウ素も、ストロンチウムも、グシャグシャにして、また、汚染粉塵付着による粘膜局所症状も、何もかも、(汚い言い方になりますが)「ミソもクソも一緒に」かき混ぜて、議論してしまうことになるからで、いったい、議論している本人の方達も、何を対象に議論しているのか、時々、わからなくなってしまっていることも多いのではないでしょうか?

 

そうではなく、きちんと、外部被曝を論じたいのであれば、外部被曝の「低線量」ことを論じればいいし、内部被曝でも、汚染粉塵のことを論じたいのであれば、付着局所のことを丁寧に計算すればいいし、その際の急性症状を議論したいのであれば、鼻血のことをきちんと論じればいいし、慢性的な影響に関する議論であれば、きちんと、モデルの妥当性から洗い直して、現行の放射線理論のモデルの不備に気をつけながら論じなければならないし、消化吸収による内部被曝を論じたいのであれば、それが、カリウムなのか、セシウムなのか、核種による生体内挙動の違い、特に、当理論で扱っている、生体分子との相互関係には細心の注意を払って議論していけばいいのです。

 

以上を踏まえた上で、LNT云々に対する私のスタンスを少々。

 

LNT仮説に関しての現在争点というのは、結局、いわゆる「低線量域」での健康障害出現に閾値があるのか、ないのか?というテーマの議論。(しつこいようですが、「低線量」というタームを使い始めた時点で、議論がトートロジーに陥ってしまうのは必至であり、大変残念なのですが、そこは押して、私もここで意見を述べてみます。)

 

まず、この、「閾値」問題。僭越ながら、細胞レベルでの閾値あり、なしと、疫学レベルでの閾値あり、なしの議論は、厳密に区別して議論すべきだと、常々思っております。

 

その前提で、厳密な議論をしていけば、外部照射による、放射線直接影響に限定したレベでの、細胞レベルで、遺伝子変異をアウトプットとした影響には、当然、閾値はあるでしょう。これは、各種実験データの示す通りです。「閾値あり」派(「従って、少々の低レベルの被曝は容認しよう」という放射能被曝限度を緩めようとする人たち)は、ここにこだわっているのですね。しかし、疫学レベルでの論では、いわゆる現行理論派が呼ぶところの「低線量域」での影響は、ごく微量の放射性セシウム内部被曝による、急性・亜急性・慢性影響は、いずれも、現行理論を大きく逸脱し、(現行理論では説明不可能なものが)、観測されうる、と、綺麗に定量的に説明する理論は、当理論で扱ったように、十分可能です。また、汚染粉塵による、呼吸器系への長期影響に関しては、これまでも、データをきちんと取る試みすら、まだまだ課題は山積みという状況です。

 

このあたりを、どう捉えていくかが、現状の、LNT仮説云々を、どう扱うか、閾値があるのかないのか、その議論の混乱の一つの要因です。 あくまで、強調しておきたいのは、何をテーマに議論しているのかの、厳格な線引きをしないで、いくらLNTが、と論じていっても、混乱に混乱を重ねるだけだという点。

 

私は、細胞レベル・外照射では、放射線直接影響での、遺伝子変異をアウトプットとした影響には、閾値はあるだろう、しかし、疫学レベルでは、従来の「ごく低線量域」で影響があるように見える部分には、セシウムなどのごく微量の内部被曝、など、による影響(or交絡因子)を観測している可能性が高い、という立場です。

 

結局、疫学上いわゆる従来理論上の「低線量域」での観測可能影響を、無視しうるのか否か、LNTを認めるのか否かという議論にはあまり意味はなく、内部被曝にこそ、従来以上の厳格な対策と規制値の(厳しい方向への)見直しを、と、論じていくべき、という立場です。

 

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補足(メスバウアー効果に関して)

2/27/2013執筆、12/26/2019 Yahoo Blogより移行公開

 

メスバウアー効果に関して、再度解説します。

ますは、通常の原子核崩壊。自由空間で、崩壊が起こったときには、どうなるか。
反跳エネルギーにより、γ線エネルギーの一部がロスしますし、ターゲット側の原子が、これまた自由に動いていれば、かなりの部分を運動エネルギーとして与え、吸収エネルギーは、その分小さくなります。現在の、放射線医学の理論で扱う事象は、すべてこの、一般的な放射線照射のパターンのみを想定しています。

次に、原子核が、固体中に、堅く固定されているときにはどうなるでしょうか。

線源側の原子核、ターゲット側の原子核、ともに固定されている時には、反跳エネルギーをロスすることなく、効率良いエネルギー伝達がされます。この、メスバウアー効果を利用したメスバウアー分光という手法は、科学の分野でよく使われる分析方法で、これを応用して、元素のspectrum解析を行うことが出来ます。皆さんもよくご存知の、NASAの火星探査機でも、火星の採取サンプルの分析方法として利用されています。

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図:いらすとや

つまり、線源側、ターゲット側がともに固定されていれば、格段に効率の良いエネルギー伝達が行われる、ということ。

 

原発事故直後から、既存の放射線医学の理論を批判的に眺めていたのですが、多くの見落としのある理論だということに気がつかれる方も多いことかと思います。その中の一つ、見落とされている条件というのが、当理論が重視している、放射性セシウムと、ある種のカリウムチャネルは、お互いに「固定」されている(なおかつ隣接している)、という条件です。

 

当理論ではこの、Cs137のβ崩壊直後、γ崩壊を起こす際、線源側(137Csのβ崩壊直後の137Ba*)、ターゲット側(Kir2.1の、Cs/Baに配位していたアミノ酸残基)が、互いに隣接・固定されていれば、効率良い、特異的なエネルギー伝達が達成しうる、という点に着目しています。

 

これが、従来の放射線理論の見逃していた点の一つで、従来理論は、すでに原子核から放出された後の放射線のことのみを考察してきました。しかし、放出前の原子核の挙動も考えることで、より効率の良い、より特異的なエネルギー伝達、という、新しい視点での見方が可能になります。

 

また、別項にて論じますが原子核崩壊時に伴う、配位座の変化、配位強度の変化が、その原子(Cs/Ba陽イオン)の周りに配位していたアミノ酸残基に対して、触媒として働く、という、新しい見方をすることができます(金属錯体による触媒、というのは化学の中で重要な位置を占めます。通常は遷移金属が錯体中心になったものが、触媒としての有利な特質を備えているとされますが、放射性原子核の場合には、崩壊時の配位座の変化、配位強度の変化という、新しいパラメータを与えてくれることになり、新しい触媒化学の見方を提供してくれることになると思います)。

 

今現在、そのような精度の良い分析方法があるのかは知りませんが、もしも将来、ガンマ線スペクトラム分析機の性能が飛躍的に改善し、極めて高性能、高精細の 分析が達成された暁には、おそらく、内部被曝中の生体からのCs137のエネルギー分析を行うと、Kir2.1の、別項で論じた触媒反応に要するエネルギー分だけ引いた箇所に、ピークが現れるのではないかと予想しています。(Kir2.1は4両体ですから、必要化学エネルギーの4倍分になるかもしれませんし、あるいは、1両体分、変化を起こせば、あとはallosteric効果でopen固定される可能性がある場合には、1,2,3,4両体分の4つのピークを持つことになるかもしれません)。そして、そのピークは、Kir2.1のCs嵌頓部位を変異させた個体からは消失することになるでしょう。

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野球を例えにとってみると、宇宙空間や無重力状態で、飛んできたボールを打ち返すことは至難の技ですが、地上の重力のもとでは、足場をしっかりと固定し、しっかりとインパクトをボールに伝えることができます。



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その他の心電図変化(QRS波、ST部分、J波)

3/4/2013執筆、11/1/2015改定、4/10/2016加筆、12/26/2019 Yahoo Blogより移行公開

 

これまでの当理論では、Cs137崩壊に伴い生成された カリウムチャネルの異常(具体的にはopen固定Kir2.1)が、心筋の脱分極・再分極(第0,1,2,3,4相)のうちの、第2-3相に焦点をあて、QT延長(または潜在的QT延長)をもたらす可能性に関して議論してきました。

 

この項では、心電図変化のうち、その他の部分に及ぼす影響に関して論じていきたいと思います。

 

具体的に議論するテーマとしては、J波症候群(早期再分極症候群)、脚ブロック、ST上昇などの可能性にについて、です。

 

<<J波やST部分に関して>>

まずは、一般的な心電図異常の解説から。心電図上、QRS派の直後に、J派と言われる、上むきのでっぱりが少し見られることがあり、総称してJ波症候群と呼ばれることがあります。一般論として、このJ波の出来方について、解説してみたいと思います。

心筋の脱分極(興奮)に引き続き、再分極(鎮静)が起こることは、心筋のの電位サイクルの説明で何度か述べてきたと思いますが、特に再分極に関しては、心内膜側(endo)と、心外膜側(epi)では、少々プロファイルが異なる、という話は以前に議論したかと思います。

ここでは、再分極のごく早期、phase0-->1のトランジションの部分について、少し詳しく議論してみたいと思います。心筋細胞は、脱分極(phase0)すると、それに引き続き、興奮を鎮めようと、再分極の一連の機能が開始します。そのまず第一陣が、Ito(一過性外向き電流)による、Kイオンの細胞外への流れで、Kv3.4などの働きに依ります。この、再分極の活動が大きいと、心筋の電位プロファイルは、一過性にnotch(下向きの凹み)を作ることになり、epi側で、よりその傾向が強いことがわかっています。

この、epi側でのnotchが、なんらかの理由で少し強めになることがあります。すると、QRSの外向き方向の誘導で言えば、下流側のマイナス要素が大きくなるということなので、上向きの電位ベクトル成分が増大することになり、J波形成に繋がると理解されています。

J波を形成するメカニズムは、このほかにも種々雑多で、INaが低下したり、さまざまな要因で起こりますが、医学的に重要なのは、Brugada症候群や早期再分極症候群などが挙げられます。特に、Brugada症候群の一部は、phase2でのre-entryというメカニズムを介して、致死性不整脈に繋がるリスクが大きいとされています。(ただし、当理論の想定するところのopen固定Kir2.1チャネルが仮に、J波などの心電図変化をもたらすことになったとしても、果たしてそれがBrugada症候群のように、rentryを引き起こし、そのことが致死的不整脈の原因、と、起因できるかどうかは、当理論では未想定のテーマです)

 

さて、ここまでは、一般的な医学知識の解説です。次に、当理論に沿った方向で、Kir2.1がopen固定された時に、この部分への影響はどうなるのかを論じておきたいと思います。その場合、phase0-->1のトランジションの部分で、Kv3.4などによるIto(一過性外向きK電流)を、阻害する方向で変化がおきるはずなのですが、問題は、それが、心筋の刺激伝達系のどこで起こるか。おそらく、Cs137の分布はランダムに起こるはずですが、とすると、平均しての考察としては、伝達路の真ん中あたりに起こるモデルで、総量としての影響を考えてみたいと思います。真ん中ということは、epiよりも、内側で、phase0-->1の下向きnotchのlossが起こることになり、これは、全体の電位ベクトルの向きとしては、epiでnotch が強調されたのと同じ向きと考えられ、J波形成(そしてST上昇)の方向に向かうと想定できます。

 

<<QRS波成分に関して>>

open固定されたKir2.1は、内向き整流機能をしっかりと持つ、高コンダクタンス型に固定される、と想定していますので、phase0時にも、そのような方向性で影響を与える可能性を考察していきます。別項で述べたように、アスピレータの原理で、Na電流と、このチャネルを介したK イオン電流が同じ向きに流れてしまいますから、phase0においては、脱分極を強調する流れ、そして、それがある程度の期間持続する向きに向かうと考えられます。QRSは増大し、幅が広く、右脚ブロック型の形状となるのではないかと想定されます。

 

ただし、以上の考察は、やはり、notch形成にかかわる電位変化やイオン濃度変化などのシグナルが、やはり、直列伝達により調節を受けている、という想定のもとで考察しています。

 

 

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