内部被曝を考察するブログ

2年近く前に骨折をしてから中断していた自転車通勤を再開しました。良い季節ですね。皆様がご健康でおられ、良い一週間でありますように。

メカニズムの説明 (定量的考察3:心臓の伝道路)

ーーー2/2/2020補足と前置きーーーーーーー

当理論を誤解される方の中には、「心臓には細胞は約1.3x10e10個もあるのだから、その中のほんの僅かが異常を来したからと言って、心臓全体や、ましてや人体の全体に影響が出るわけがない」という誤解をされる方もおられるかもしれません。この項での議論は、そのような誤解をされる方の為の議論でもあります。一言で端的にいうと、「心臓が直接接続のシステムである」ということに関する議論。

以下、付記13より転載:

当理論の最初の時点からの着眼点の一つとして、心臓というのは直列のシステムである、という点です。ここが従来の放射線医学が見落としていた最大の盲点の一つです。従来の放射線理論、放射線医学は、すべての考察を臓器の被曝総量、または平均値でしかとらえておらず、並列システムの考え方に依っています。ですが、細胞のシグナル遅延、システムとしてのタイミングの遅延という点を考察する当理論の考え方で、初めて、直列接続により、ごく微量での細胞異常でシステムに障害が起こるという定量的議論への道が開かれることになりました(第2の注:細胞のタイミングが遅れるだけで、細胞死を論じているわけではないことを忘れないでください)。心臓の心筋細胞は、心室壁の厚み約2cm内外の中に、直列伝道のシステムを作っていて、心筋細胞索と呼ばれます。直列接続を扱った別記事の補足もご参照ください。

ーーー補足と前置き終わり。以下オリジナル記事ーーーー

 

 

さて、前項に断っておいたように、想定されるCs内部被曝量は、非常に少なく、一つの細胞につき、
1つもチャネルを壊せないだろうな、という濃度を議論しなければならない。つまり、上記の式において、N2<<<1の場合。

ではここで、すべての心筋細胞で、再分極が延長しないと、phenotypeとして影響がでないか、
といえば、そうではないという可能性も考えておかないといけないということを論じる。

心筋細胞が、伝達系をなすからこそ、このような独特の思考が大事になってくる。

言うまでも無く、心筋細胞は、Gap-juncitonを介して上流のペースメーカーから、下流に向かって、
脱分極、再分極の電位情報を伝達している。伝言ゲームをやっているわけです。 (注:補足説明)

イメージ 3
単純な伝言ゲームにおいては、誰かどこかにノロマなヤツがいたら、下流は次々にしわ寄せを食らう

これが、心臓を伝達系と捉えるとき、その他の臓器と違うところ。
語弊はあるが、心臓は直列処理をしている臓器ですから、並列処理をしている肝臓などとは、ことなる理解が必要。

イメージ 1

 

上の図を説明します。単純化しすぎではあるが、まずは1次元の直列伝達系とすれば、

C1-->C2-->C3--> …. … …. -->Cn (ただしCiは各心筋細胞)

と伝わっていく過程の、どこか一箇所が遅延すれば、最終的には全部遅延。
つまり、心筋細胞がどれか一個でも遅延すれば、最終的にQT延長となり、セシウムは目茶目茶危険と言う結論になる。

N2<<<<<<<<<<1でもQTが延長するという結論になる。でも、言うまでも無くこのモデルは正確ではないでしょう。

つまり、心筋の細胞―細胞のネットワークは、上記のように1次元の伝達系ではなく、2次元、3次元にgap junctionで電気的につながって、ある程度の伝播の冗長性があって、 興奮・脱興奮のシグナルを伝えている。

では、2次元、3次元の場合、1個の心筋の遅れが、どのくらいの影響を、全体に及ぼすのか?
逆に、全体が遅延してしまうくらいの影響は、何個の心筋細胞の遅延で生じうるのか。
これは、システムを単純化すれば、ある程度のシミュレーションが可能だとは思う。
1次元であれば、「孤立波(ソリトン)」が、バネでつながった格子モデル(戸田の格子モデルなど)を伝わっていくのを考えればいい。
途中に1個だけ、他とはバネ定数が違う格子が存在したときのインパクト。
まあ解を出そうとしたりシミュレーションしなくても、1次元の場合には、上の伝言ゲームでの遅延の話のように、
1個でも遅延したら影響が出ると言うのは予想が付く。

これを、2次元・3次元格子モデルに拡張したときどうなるかを考えればよい(下の図の通り)。

イメージ 2




あ、そうそう、ちょっと追加で断っておきますが、細胞が「死んでくれれば」、楽なんです。心筋細胞が死んだとたん、 まずgap-junctionが切り離され、伝達系から隔離されると考えられているから。
問題は、「私正常心筋細胞よ」なんて顔をして、みんなの足を引っ張るヤツが出来てしまった場合。そのことを論じています。





随分と長い議論になってしまいました。お付き合い頂き、有難うございます。
ここで、結論をまとめさせていただきたいと思います。


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極く微量のセシウム内部被曝、体重あたり50Bq/kgで、高率に心臓伝道路の機能障害が起きる、というBandazhevskyのデータは、いくつかの仮定をおけば、正しい可能性が高い。QT延長症候群を引き起こしているというメカズムは、最新の医学知見と矛盾していない。その他の疫学調査と整合性もあり、動物実験でも再現されている可能性がある。
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従って、食事からの放射性セシウム摂取は、引き続き、注意をし続ける必要がある

以上が、結論です。



(注:補足説明)最近の循環器学の数々の実験医学データからは、心筋細胞のギャップジャンクションを介したシグナルの伝播が、再分極にも重要だと言う実験データが蓄積しています。Phase 2の持続時間はIKsが主因と考えられていますが、生体内での、脱分極持続時間(APD)の、心筋細胞-心筋細胞ごとのズレは、ギャップジャンクションを介したシグナルが重要です。つまり、個々の心筋細胞自体それぞれにも、再分極時間を決める自律機能があるけれど、心臓全体の調律の協調を行うために、再分極も協調リズムを取っていると考えられています。ここからは、あくまでも、仮説としてですが、phase 2-->3のトランジションの伝播が大事なのかな、と個人的には理解しています。phase2の遅れが、モロに下流に効いて来るというモデルは、この再分極のギャップジャンクション協調モデルに従っています。後ほど、補足させていただきたいと思います。

(2019年12月補足):オープン固定Kirチャネルを持つ心筋細胞の個数に関しても、Bandazhevskyの報告の微量内部被曝量で心電図異常をきたすのに十分であろうと考えられる定量評価の補足記事を用意しています。補足記事1補足記事2。ご参考ください。

 



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