内部被曝を考察するブログ

2年近く前に骨折をしてから中断していた自転車通勤を再開しました。良い季節ですね。皆様がご健康でおられ、良い一週間でありますように。

Kイオンの流れに関しての補足事項

11/8/2015執筆、12/24/2019 Yahoo Blogより移行公開

 

当理論で、少し詳しい説明を省いている箇所がいくつかあります。その一つが、Kイオンの流れの向きに関する補足事項です。当理論では、Kir2.1などの高コンダクタンス・フォーム(たくさん電流を流す類のチャネル)が、Cs137崩壊時にopen固定された際、整流機能を持ち、これが、心筋の脱分極・再分極の、ある相では、KvLQT1 (KCNQ1)のような低コンダクタンスチャネルによるK電流と拮抗する、というのを、一つの症状の顕在化の説明として挙げています。大雑把な理解としては、従来の説明で良いかと思いますが、ここでは、より詳細なメカニズムの検討を行いたいと思います。

 

別項で論じたように、Kir2.1は、Nav1.5と、誕生から墓場まで、常に行動をともにしている、ちょっと変わったKチャネルです。これは、(1) Kイオン、Naイオンが、そのチャネロソーム(Kir2.1+Nav1.5複合体)の局所付近では、お互いのイオンの流れに影響を与え合う、そして(2) Kir2.1, Nav1.5の開閉制御が、お互いの陽イオン流入などによっても制御される、という可能性を示唆しています。(注:2000年代以前の電気生理学の実験では、KirチャネルによるK電流のことを調べるために、系を単純化するため、人為的に細胞内外のNa濃度差をゼロにし、Na電流が測定系に影響を与え無いように条件を固定してから測定する実験ばかりでしたので、vivoでの(生体内の)忠実な環境を反映した測定条件ではなく、Nav1.5とKir2.1の共挙動の意味を洞察する生理学実験というのは存在しませんでした。)

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さて、今、仮に、Nav1.5が開き、Naイオンが流入を始めたとしましょう。細胞内外のNa イオンの濃度さは大変大きいので、勢い良く(ここが重要)、Naイオンが細胞内に流れ込んできます。

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Naイオンの流入の勢いが強いので、細胞内では、同じ陽イオンのKイオンは、Naとともに、チャネロソームの 局所からは、拡散していきます。Naイオンの勢いによって、洗い流されていくようなイメージを考えてください。

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そして、Na流入は、大変に勢いが強いので、チャネロソーム局所付近の細胞内Kイオン濃度は、一過性に、ほとんどゼロとなります。つまり、本来は、細胞内外のKイオンの濃度比は、細胞内>細胞外ですが、この関係が、局所的に逆転します

もしも、仮に、この時、Kir2.1が、閉じていなかったとしたら、どうなるでしょうか?Kir2.1の多くは、内向きの整流機能を持つ、チャネルですが、Kir2.1が整流機能を持とうが持つまいが、もしもKir2.1が閉じていなかったら、この瞬間には、このチャネロソーム局所においては、細胞外から細胞内へと、Kイオンが流入してしまいます。これが、(1) Kir2.1も、しっかりと開閉制御を持っていないと、心臓の生理機能的に、大変な事態に陥ってしまうと考えられる所以で、かつての「Kir2.1はリーキーチャネルだ」と言われていた時代の古い理解が問題である一つの所以であり、(2) 当理論でCs137崩壊に伴い、Kir2.1がオープン固定されると、KvLQT1などと拮抗する働きをもつ、という話の、詳細なメカニズムです。

 

(1) について、実際、Kir2.1のタンパク分子の3次元構造が解明された後になって、構造をよく見ると、きちんと開閉構造はすべて保存されており、細胞膜でのPIP2などとの結合で開閉調節を受けることは、確立している。この、PIP2と、開ラッチ、閉ラッチのアミノ酸残基との結合は、まさに、1価の陽イオンの局所濃度に影響を受けることは、解離定数から明らかなので、やはり、すべての予測は、理にかなっており、Nav1.5からの一過性Na流入により、Kir2.1が、閉じる、というのが、実際の心臓の生理機能上、phase0(そしてその後の再分極期)などの流入期に、重要なのだと考察される。

 

ところで、この、Nav1.5とKir2.1の関係、皆さんが小学校の時に、よく見ていた、ある道具と大変良く似ているのです。水流ポンプ(アスピレーター)、というのを理科の実験で使ったのを、覚えておられますでしょうか?水道のじゃ口につなぎ、勢い良く水を流すと、水の勢いとともに、真空ポンプとして機能してくれる、という道具で、下図のような外見をしています。

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この道具、幾つかの特徴的な構造をしています。(i) まず、水の流れ(A-->B)は、絶対に、空気の吸い出し口(図のC)の方には、流れていかない。(ii) 水の勢いが、勢い良くなるような工夫がされている(ベンチュリ効果)。

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(iii)市販の、一般向けのアスピレーターでは、空気吸い出し口に、逆流防止弁が付いていることが多い。

 

さて、これらの、構造的特徴を、当理論のKir2.1とNav1.5の関係性に当てはめて考えてみましょう。Nav1.5の流れが、水の流れに相当し、吸い出される空気はKイオンということです。

 

(i) Naイオンは、絶対に、Kirチャネルを通って逆流しない。これは、その通りです。そもそも、Kチャネルというのは、Naイオンを絶対に通さないように設計されているわけですから。

(ii) Naイオンの流れは、大変に勢いが良い。Nav1.5がオンの時には、その通りです。この「勢い」が大事なのは、まさに水流ポンプと同じです。

(iii) 正常時のKir2.1は、上記のように、Naイオン流入によって、閉状態になると考えられますから、(iii)に関しては、正常の心筋細胞であれば考えなくて良いのですが、当理論の扱う、Cs137崩壊時にオープン固定されてしまったKir2.1に関しては、まさに、この水流ポウンプと同じことになります。オープン固定Kir2.1は、がっつりオープン型の構造になると予測できますから、Mgなどの整流因子も、整流弁の箇所に、良好にアクセスできるフォームとなり、しっかりと整流機能を持つ、高コンダクタンス型の、オープン・フォームをとると考えられます。したがって、オープン固定されたKir2.1は、Nav1.5とともに、水流ポンプのような働きで、その他のK電流と拮抗する、と考えられます。

 

また、細かい話にはなりますが、Nav1.5が勢い良く流れるのは、phase 0(脱分極期)に限った話ではありません。その後、再分極期にも、Nav1.5を介したNa電流は、ちょろちょろと流れることがわかっています。ここで注意しなければならないのは、この、ちょろちょろ期に、INa電流が、わずかだからと言って、個々のチャネルとしてのNav1.5の電流に勢いがないわけではありません。そもそも、INaの大小の議論は、INa総量としての大小という議論のレベルであって、一個一個のチャネルの勢いの話ではないからです。つまり、開確率としては低下するが、一旦Nav1.5が開いた際には、その瞬間、その1個のチャネルを流れるNa電流は、相変わらず、勢いが強いと考えられます。したがって、結局、Kir2.1は常にNav1.5と行動をともにしているわけですから、再分極の中盤までは(おそらくphase 1-2乃至3の初期)にも、オープン固定Kirに限っては、この水流ポンプの事象を考察しなければならない。

 

 

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