3/4/2013執筆、11/1/2015改定、4/10/2016加筆、12/26/2019 Yahoo Blogより移行公開
これまでの当理論では、Cs137崩壊に伴い生成された カリウムチャネルの異常(具体的にはopen固定Kir2.1)が、心筋の脱分極・再分極(第0,1,2,3,4相)のうちの、第2-3相に焦点をあて、QT延長(または潜在的QT延長)をもたらす可能性に関して議論してきました。
この項では、心電図変化のうち、その他の部分に及ぼす影響に関して論じていきたいと思います。
具体的に議論するテーマとしては、J波症候群(早期再分極症候群)、脚ブロック、ST上昇などの可能性にについて、です。
<<J波やST部分に関して>>
まずは、一般的な心電図異常の解説から。心電図上、QRS派の直後に、J派と言われる、上むきのでっぱりが少し見られることがあり、総称してJ波症候群と呼ばれることがあります。一般論として、このJ波の出来方について、解説してみたいと思います。
心筋の脱分極(興奮)に引き続き、再分極(鎮静)が起こることは、心筋のの電位サイクルの説明で何度か述べてきたと思いますが、特に再分極に関しては、心内膜側(endo)と、心外膜側(epi)では、少々プロファイルが異なる、という話は以前に議論したかと思います。
ここでは、再分極のごく早期、phase0-->1のトランジションの部分について、少し詳しく議論してみたいと思います。心筋細胞は、脱分極(phase0)すると、それに引き続き、興奮を鎮めようと、再分極の一連の機能が開始します。そのまず第一陣が、Ito(一過性外向き電流)による、Kイオンの細胞外への流れで、Kv3.4などの働きに依ります。この、再分極の活動が大きいと、心筋の電位プロファイルは、一過性にnotch(下向きの凹み)を作ることになり、epi側で、よりその傾向が強いことがわかっています。
この、epi側でのnotchが、なんらかの理由で少し強めになることがあります。すると、QRSの外向き方向の誘導で言えば、下流側のマイナス要素が大きくなるということなので、上向きの電位ベクトル成分が増大することになり、J波形成に繋がると理解されています。
J波を形成するメカニズムは、このほかにも種々雑多で、INaが低下したり、さまざまな要因で起こりますが、医学的に重要なのは、Brugada症候群や早期再分極症候群などが挙げられます。特に、Brugada症候群の一部は、phase2でのre-entryというメカニズムを介して、致死性不整脈に繋がるリスクが大きいとされています。(ただし、当理論の想定するところのopen固定Kir2.1チャネルが仮に、J波などの心電図変化をもたらすことになったとしても、果たしてそれがBrugada症候群のように、rentryを引き起こし、そのことが致死的不整脈の原因、と、起因できるかどうかは、当理論では未想定のテーマです)
さて、ここまでは、一般的な医学知識の解説です。次に、当理論に沿った方向で、Kir2.1がopen固定された時に、この部分への影響はどうなるのかを論じておきたいと思います。その場合、phase0-->1のトランジションの部分で、Kv3.4などによるIto(一過性外向きK電流)を、阻害する方向で変化がおきるはずなのですが、問題は、それが、心筋の刺激伝達系のどこで起こるか。おそらく、Cs137の分布はランダムに起こるはずですが、とすると、平均しての考察としては、伝達路の真ん中あたりに起こるモデルで、総量としての影響を考えてみたいと思います。真ん中ということは、epiよりも、内側で、phase0-->1の下向きnotchのlossが起こることになり、これは、全体の電位ベクトルの向きとしては、epiでnotch が強調されたのと同じ向きと考えられ、J波形成(そしてST上昇)の方向に向かうと想定できます。
<<QRS波成分に関して>>
open固定されたKir2.1は、内向き整流機能をしっかりと持つ、高コンダクタンス型に固定される、と想定していますので、phase0時にも、そのような方向性で影響を与える可能性を考察していきます。別項で述べたように、アスピレータの原理で、Na電流と、このチャネルを介したK イオン電流が同じ向きに流れてしまいますから、phase0においては、脱分極を強調する流れ、そして、それがある程度の期間持続する向きに向かうと考えられます。QRSは増大し、幅が広く、右脚ブロック型の形状となるのではないかと想定されます。
ただし、以上の考察は、やはり、notch形成にかかわる電位変化やイオン濃度変化などのシグナルが、やはり、直列伝達により調節を受けている、という想定のもとで考察しています。