内部被曝を考察するブログ

2年近く前に骨折をしてから中断していた自転車通勤を再開しました。良い季節ですね。皆様がご健康でおられ、良い一週間でありますように。

再びQT延長症候群について (制御理論的考察)

散々、QT延長症候群、というのを議論してきました。

いったい、QT延長のなにがまずいのでしょうか?
そういえば、以前、あるかたが、議論に乗ってきてくださり、次のような大事な意見を言ってくださいました。

「心臓なんて進化の過程で強固にできてるんだから、ごくわずかな細胞がダメになったからと言って、機能異常につながるようなヤワな臓器じゃないよ」 という感想をいわれた方がおられ、それはもっともだな、と思うのですが、

QT延長症候群というのは、心臓が「機能異常」を来たしたり、それだけで「脈が乱れたり」、している状態では決してなく、 QT延長だけで、個体がすぐに死んでしまうような状態ではない、というお話をさせていただきたいと思います。

むしろ、心電図上の、あるパラーメータであるQT時間が延長している、ということ以外は、自覚的にも他覚的にも全く無症状。 心臓も全く正常に機能している、という状態。

QT延長の何が問題か、というと、「安全マージンが少なくなっている状態」ということ、というのを、解説してみたいと思います。


生命体には、フィードバック機構というのがあって、何かの異常が起こったり、なにかの変化が起こったときに、これを、もとの状態に戻そうとする働きがあります。

これからの生物学で、もっと真剣に考えていかないといけないのは、こういった、フィードバックの「安定性」ということです。

たとえば、ハンディカムビデオに、「手振れ補正」という機能がついていますが、
これは、手振れによる、ブレ角度の情報を、メカがフィードバックを掛け、撮影のときに上手くブレがキャンセルされているわけですが、 何気なく使っている、こんなメカのこんな当たり前のフィードバックも、下手な設計をしたら、 ブレがキャンセルされるどころが、ブレが余計に大きくなったり、「発振」してしまったり、ということが起こります。 そうならないように、如何に、システムを安定にするようなフィードバックを掛けるか、ということを論じる学問があり、 「制御理論」と呼ばれています。

制御理論的には、(ちょっと乱暴な言い方を許していただければ)、フィードバックが「遅れる」ことは、安定性の余裕が無くなる、という言い方が出きます(附記参照)。




心筋細胞の、電位状態のことを考えると、上記に論じて来たカリウムチャネル、この場合にはKvLQT1と言うのは、膜電位の脱分極状態を感じ取って、 これを、再分極の側に戻そうとする、一種のフィードバック機構に携わる分子と見ることもできます。 外向きK電流IKsをオンにして、フィードバックを掛けているわけです。

再分極が遅れる、ということは、制御理論的に見れば、位相が遅れ、安定性の余裕が少なくなっている、ということです。 QT延長症候群、というのは、言ってみれば、安定性の余裕がなくなっている状態とも言えます。

勘違いされておられる方もおられるかと思うので、断っておきますと、QTが延長したからと言って、すぐに健康障害の状態が起こっているわけでもなく、 すぐに個体が死んでしまうわけでもありません。むしろ、心電図上、QT時間が延長していること以外は、自覚的にも他覚的にも、無症状と言っていいくらいです。

でも、システムとしての安定性の余裕がなくなっているので、ちょっとした刺激があると、
「不安定な状態」(この場合には、不整脈)に至るリスクが高くなっている状態、と解釈しておいてください。

ただ、一旦不安定な状態に陥ると、重篤不整脈に通じることがあります。下記の図の、Torsades de Pointesという状態が、危険な状態です。


つまり、セシウム内部被曝は、ごく微量、体重50Bq/kgであっても、高率に、心臓伝道路障害を来たす可能性があり、Bandazevskyの明確なデータがある。他の疫学調査とも整合性があり、動物実験でも否定はされていない(私は個人的には、再現が取れている可能性があると感じます)。そして、重篤不整脈を発症するリスクの高い状態を来たしている。

従って、食事からのセシウム内部被曝は、10B/kg以下を守らないといけません。食品、特に、主食の米は、厳格に検査し、福島の子供たち、日本のこれからの世代を、しっかりと、リスクから守ってあげて欲しいです。

イメージ 1

(他サイトからの転用です)

 

(2015年11月補足):微量放射性CsによるKirへの影響により生じるQT延長と、大量の非放射性Csで生じるQT延長の本質的な違いなどに関して補足記事を公開しました。補足記事1補足記事2

(2019年12月補足):遺伝子異常や実験的操作により生じるQT延長やQT短縮や、各種薬理学実験との整合性に関して、補足記事を公開しました。

 

 


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