さて、基本事項をある程度確認した段階で、放射性カリウム(K40)と、放射性セシウム(Cs134/137)の違いについて、話を戻してみましょう。
説明したいテーマは、K40=無害、Cs134/137=有害、というインパクトの差が生じ得る可能性に関する議論です。
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(2020年1月補足:この記事に続く一連の本稿を読んでいただければ、誤解なく理論が伝わるはずなのですが、記事を読まずして誤解される方が多いので補足しておきますが、当理論では、上記の「有害」と言う言葉を、細胞死(細胞ダメージ)の可能性の存否について議論しているわけではありません。細胞(そしてシステムとして)の挙動のタイミングが異常をきたすことを議論しています)
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<<K40がβ崩壊を起こす際のことを考えてみる>>
言うまでも無く、K40のβ崩壊は
K40-->Ca40 + e- + ν-
まずは、細胞質内で起こったら、という思考実験。
前のページに述べたように、自由水に緩く囲まれた、この「緩い」状態では、おそらく、崩壊時に「反跳」でエネルギーを獲得しても熱エネルギーとして消費し、あまり効率よく他分子に影響を与えることもないだろう。たとえ、低い確率で水分子を電離してラジカル生成しても、細胞内にはSODという無毒化酵素がたんまりあるので、 すぐに無毒化されるはず。生体内にあるK40の量程度では、まったく細胞はダメージを受けない。 Kチャネルに対しても影響を及ぼし得ない。
一方、Kチャネル通過時に崩壊が起こったときの思考実験。
いってみれば、自由水分子に囲まれているのと同じような「ゆるい」状態のK40イオンが、イオンチャネル通過時に 崩壊を起こしても、やはり、反跳にエネルギーを消費して、K40原子がCa40に変化したところで、K-channelに与える影響はごく少ないだろう、と予想できる。
話を、Csに切り替えましょう。
語弊はありますが、Csって、食物連鎖的には、ほぼ無視していい元素です。言ってみれば、希少元素なんです。
だから、哺乳類にはCsチャネルというのは存在しない。神様が設計する必要を感じなかったからです。
じゃあ、生命体細胞はCsイオンを取り込まない、となってくれりゃ、原発事故の心配事も少なくてすむんですが、残念ながら、(乱暴な言い方をすると)Kイオンと誤認識されて、細胞内に取り込まれてしまうんですね。
この時に、Kチャネル(など)が関与する、と考えられています。(実際には取り込みは、「ポンプ」と呼ばれるの分子が主因と考えられていますが)
ところで、KイオンとCsイオンがKチャネルを通過するときに、決定的に異なる、あるひとつのパラメータがあります。
通過時間です。 (注1:下記補足説明)
上に書いたように、Kイオンは、ほぼ時間ゼロでKチャネルを通過するが、Csイオンは、通過時間がめちゃめちゃ長いんです。特に、Kチャネルの中でもKirと呼ばれる一部のグループに関しては、実際に嵌り込んでロッジします。(注2)
ちなみに、Csイオンがロッジする生命体分子は、Kチャネル系分子だけだ、と考えられています。
少し、詳しく補足してみましょう。
前に書いたように、Kイオンにしても何にしても、チャネルをくぐろうとするとき、この自由水和水を「脱ぎ捨てて」、 替わりにチャネル構成アミノ酸残基側鎖のチャージを「身に纏う」ことになっています。
だから、フリーのイオンの状態での水和水の配列と、イオンチャネルのアミノ酸のチャージの配列が、完璧にマッチしていないとマズイ、というのは説明しましたね。 (Naイオンが、サイズが小さいにも関わらず、絶対にKチャネルをくぐれない理由です)
さて、Csイオンの問題は、K-channelの開閉部をくぐろうとしたとき、その水和水の空間配列のピッチが、Kイオンのそれとは、 かなり異なるわけで、だから、特にKirチャネルと言われるグループのKチャネルには、「嵌まり込ん」で、堅くロッジしてしまう。 (注2)
CsイオンはKチャネル(特にKirチャネル)に、長時間、「堅く嵌り込んで」そこに居座り続けることになる。
次に考えるべきこテーマは、もうお分かりとおもいますが、
<Kチャネルに「堅く嵌まり込んだ」状態で、Cs134/137が崩壊を起こしたら、どうなるか>
もう一度確認しますが、K40のβ崩壊は
K40-->Ca40 + e- + ν-
ですね。
生成するe-や ν- の方ばっかり見ると、これがどこに飛んで行こうが、飛んでいく先の相手分子・原子に与える影響なんて、 一旦e-やγが生成した時点で、どの核種も(K40もCs134/137も)同じだろとなりますよね。
(これが、従来の考え方です)
でも、こここでは、残されたK40(Ca40)のことに関して、注目しながら、議論をしていってみたいとおもいます。
Csの例を挙げるときに、もうすこし詳しく議論してみます。