内部被曝を考察するブログ

2年近く前に骨折をしてから中断していた自転車通勤を再開しました。良い季節ですね。皆様がご健康でおられ、良い一週間でありますように。

附記8(カリウムチャネルにセシウムは、詰まるのか、詰まらないのか。 -- 意外に知られていないKirの事実について)

最近、知人から指摘されたのですが、当ブログの理論を誤解されるかたが多いのではないか、ということです。その一つが、
 
(誤解に基づく発言)セシウムカリウムチャネルに詰まるなんて、馬鹿な話をするな。カリウムチャネルはセシウムイオンを通すことは、昔から分かっている。セシウムカリウムチャネルに詰まるなんて言っているのは間違いだ」
 
という誤解です。おそらく、このような誤解というのは、いろいろなカリウムチャネルの挙動を、ごっちゃにしてしまわれたために至ってしまった誤解なのだろうと思います。
 
セシウムが、Kirというカリウムチャネルに対して、「詰まる」挙動をする、というのが、このブログの理論のまず第一の着眼点ですが、もしかしたら、上記の誤解のように、この「詰まる」という部分に、異論を唱える方がおられるかもしれません。
 

医学生物学に何らかの素養のある方で、カリムチャネルのことを知らない方はおられないかと思います。

 
 
カリウムチャネルが、カリウムイオンを選択的に通す生命分子であり、ナトリウムイオンを通さないというのは、説明した通りです。
 
では、カリウムイオンよりも、かなりサイズの大きい、セシウムイオンに関してどのように振る舞うのか?これはも、以前に解説を出しました
 
当初、話を分かりやすくするために、少し端折って書いているので、もしかしたら、生物学を知っておられるかた、あるいは原発事故後に少し調べ物をされた方は、「あれ?」と思う箇所が、1箇所見つかるかもしれません。それが、上記のような、「詰まる」のか、「詰まらないのか」という議論。
 
カリウムチャネルのうち、内向き整流カリウムチャネル(Kir)以外のものは、実はセシウムイオンも、ゆっくりですが、通すものもが多いのです。
 
例えば、KvLQT1(別名KCNQ1, Kv7.1)などは、上記のKirチャネルとは少し様相が異なり、Csイオンは若干ですが通すことが知られています。このチャネルに関しては一価の陽イオン選択性もよくわかっており、Tl>K>Rb>NH4+>Cs>Naという順番に通しやすくなっています。カリウムイオンの通過のしやすさを1とすると、だいたい、0.08から0.12くらいの割合で、セシウムイオンをゆっくりと通します(Kirのように堅い足場固定にはならずに、ゆるく通す感じになります)。
 
 
しかし、実は、生物学系でもあまり知らない方もおられる様なのですが、カリウムチャネルのうち、内向き整流カリウムチャネル(Kir)に対しては、セシウムイオンは、特異的に、はまり込んで、ブロックしてしまいます。(現在では、Kirチャネルのどこに嵌まり込むのかという、詳しい解析もわかっていますが、さらに詳しい挙動と計算はまた後ほど)。ブログの当初の記事に書いた通り、このブログの理論も、Kirに対する影響を主眼に理論を構築しています。はまり込んだ場所で、崩壊を起こしたらどうなるのか、ということを延々と論じています。
 
はまり込む、詰まる、ということは、それだけKirに対しては、他のKチャネルに対してよりもaffinityが高いということです。より詳しいことは、新たな記事を準備中ですが(注)、一旦この、Csがkirチャネルに対して詰まるという挙動を元に、関係性を整理してみましょう。
 
(表1)
イメージ 1
 
これも、すでに何度か説明したことを繰り返しているだけですが、この表のように、放射性セシウムと非放射性セシウムのKirに対する影響の出方も全く別物ですし、Kイオンのうち、放射性のK40というものもありますが、すでに過去の記事で取り上げてきたように、K40はKirチャネルに対しても、その他のKチャネルに対しても、全くの素通しなので、生命体分子に対する影響は(生体に常在する程度の量では)全くないと考えられるわけです。
 
Kチャネル側から見れば、K40というのは、素通し、つまり、言って見れば、「見えてい」ないわけです。忍者に例えれば、忍法隠れ身の術、といったところでしょうか。生命体分子が、何億年もかけて、環境中の放射性元素であるK40に適応してきた賜物と考えても良いと思います。
 
 
一方、放射性セシウムは、Kirにガチガチにはまり込みます。
 
足場固定した時に、放射性元素が崩壊するという条件を考える時、前述のように(記事1記事2)、(固定されていない時に比べて)2つの大きな挙動を考える必要が有ります。(1)ひとつは、足場固定のために、エネルギーの伝達が、極めてよいであろうということ。(2)もう一つは、崩壊時の配位座や配位強度の変化が、隣接分子の電子挙動に影響を与えうる条件が成立する(化学反応を促すと、考察しうる)。
 
 
このうち、何度も説明はしましたが、(1)の足場固定された時に崩壊する時のエネルギー伝達の効率の良さに関して、もう一度、例をあげて解説してみます。
(もうひとつの(2)の配位座の問題は、とても重要なのですが、またいずれ機会を設けたいと思います)
(2019年12月 配位座の変化が及ぼす影響に関する記事を公開しました)

皆様は、野球をやったことがあるでしょうか。
地上で野球をする場合、バッターボックスにたった打者は、ボールをインパクトする瞬間、足場にぐっと力を入れ、効率良くバットからボールに力(エネルギー)を伝達することで、ボールを遠くに飛ばすことができます。

では、宇宙空間でバッターがボールを打ったらどうなるとおもいますか?


バッターは、まあそもそも、バットをうまく振れないことに加えて、ボールをインパクトした瞬間に、同じ衝撃を反作用で受けます。反作用を受けるのは地上でも同じですが、ところが宇宙空間の場合には、バッターの足場が固定されていない為に、「踏ん張る」ことができず、バッターは、ボールを打った方向と逆方向に回転を初めてしまします。ボールも上手く飛んで行きません。つまり、足場が固定されていないために、エネルギーが上手く伝達できなくなってしまうわけです。地上で当たり前のように、子供も大人も楽しんでいる野球ひとつをとってみても、普段意識することのない「足場固定」による絶大な恩恵に預かっているわけです。宇宙空間という、足場のない世界に踏み出して初めて、足場固定の有り難みと重要性に気がつくわけです。

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(図は「フリー素材挿絵の森」様から拝借改変)

さて、放射性セシウム(Cs134/137)と放射性カリウム(K40)。Kirに対する、足場固定の条件は、このページの上記の表1のとおりです。


まずは、このブログの理論の、第一段階の着眼点を、納得いただけましたでしょうか?


ちなみに、古典的放射性生物学(ICRPの理論)の成り立ちは、放射線による影響も、放射性物質の挙動も、すべて、足場のない世界で作り上げられた、現代物理学の法則を適応してしまっています。大事なパラメータの見落としがあると思います。
ご存知のように、Cs137は、β崩壊をしますが、出てくるβ線(電子線)はエネルギーと粒子性が強すぎて、たとえ隣接、固定されていても、隣接分子を素通りしてしまうと考えられるのかもしれません。しかし、β線放出直後のCsは、Ba原子に壊変しており、このBa原子が不安定であるがために、γ線を放出するわけです。γ線の場合には、波動性をもっていますし、なにより、固定原子同士での効率の良いγ線のエネルギー伝達に関しては、よく知られた物理学の知見です。



もう一度まとめます。
K40という生体内常在放射性元素の挙動から見れば、Kチャネルとの間に、足場固定はない。
一方、Cs137とKirの間には、強力な足場固定がある。
エネルギー伝達的な観点から物を言うと、Kirから見れば、Cs137に対しては、姿を見せているけれど、K40に対しては、姿を見せていないわけです。つまり、K40に対して、Kチャネルというのは、隠れ身の術を使っている、ということは、そういう意味です。

(延々と、(1)足場固定のことを説明しましたが、実は、(2)隣接時の配位座の変化という条件の方が、むしろこの問題では重要なのだろう、と考えています。この問題は、別途、時間を作って解説する機会を設けていきたいと思います)

 
(余談になりますが、すでに別途の附記で補足した、同じく生体内常在放射性元素である放射性炭素[C14]、トリチウム[3H]など。これらは、すでに述べたように、確かに、生命体分子の主要構成元素として生命体分子中にガチガチに取り込まれ、崩壊時にやはりその生命体分子を壊すことが想定できますが、Cs137-Kirの関係と違って、ランダムなターゲットをrecessiveに壊しているだけなので、やはり固体や臓器レベルでの生命体分子の機能としては障害が生じないだろう、ということを説明させていただきました。これも、生命の適応がうまくいっていることの例ですね。忍法に例えると、さながら、「分身の術」のようなものを考えると分かりやすいかもしれませんね。但し、14Cや3Hによって、機能障害につながらないと推測できる、と言っているのは、自然内部被曝線源として存在する程度の量では、という意味です。実験室レベルでの大量摂取になれば、障害が生じえます)
 
イメージ 3
(忍者画像は「オンラインショッピング忍者衣装」様から拝借改変)
 
<<2018年12月補足>>
基礎生物学界、特に、このテーマが深く関与しているKチャネル学界で、昔から根強く残っている、ある「誤解」があります。最近では、世界的な流れで見ると、ようやく修正されてきているようですが、まだまだ誤解したままのチャネル学者も多くいるようです。その誤解が元になり、当理論を信じるに足りない、とするご意見もあるかと思います。すでに、数年前の記事や、コメント欄での議論でもこのテーマに触れている通りなのですが、簡単にかいつまんで下記に但し書きをさせていただきます。(別個、詳しい説明のための別記事を以前から用意しているのですが、いくつかの説明図の完成を怠ってしまっていること、などなどが重なり、まだ公開しておりません。)
 
その誤解というのは、「心筋には正常の状態でも、ダダ漏れリーキーチャネル、恒常的オープンチャネル、元々正常でも、恒常活性型Kチャネルがあり、少々、放射性セシウム崩壊時にKirがオープンになったところで、影響はない」というレッテルです。
 
これは、(1)パッチクランプという実験で用いられた条件の再構成不足による1990年代の見解を引きずっていること、(2)正常心筋の脱分極・再分極相を丁寧に考慮に入れてこなかったこと、(3)Kirの共挙動分子の複合体の役割(2000年代以降確立してきた概念です)を無視してきたことなどによります。(ちなみに、最後の部分、Kirは生成から代謝までのすべての期間を通し、Naチャネルと、共挙動する、という「ナゾ」の挙動をすることが有名ですが、かつてはなぜこのようなユニークな挙動をするのか、その意味づけすら明確ではありませんでしたが、この理論に沿った方向性での開閉機構の説明で、この部分は非常に合目的挙動に進化しているのだという、理にかなった説明が可能になってきます。すでに数年前に記事を用意してはいるのですが、もう少しわかりやすく書き換えたいと思っています。公開はしばしお待ちください。)
(2019年12月:「リーキーチャネル」の誤解に関する記事を公開しました。記事1記事2記事3記事4
 
2000年代以降明らかになった、Kirの構造解析も、旧来のそのドグマ(Kirなどは正常状態でも常にリーキーチャネルであるという旧来の概念)が誤解であり、やはり当理論に沿った方向でのKir開閉機構の重要性、そしてあえて先進的なことを述べてしまうと、第1相から2相初期、第2相後期から第3相にかけての開閉が重要な意味を持つということを示唆しています。
 
 
 
 
 
(注)一旦、堅くガチガチにはまり込んだCsイオンも、やがては外れることもあります。この部分の定量的な計算に関する説明を準備中です。後ほど詳しい解説を記したいと思います。