内部被曝を考察するブログ

2年近く前に骨折をしてから中断していた自転車通勤を再開しました。良い季節ですね。皆様がご健康でおられ、良い一週間でありますように。

メカニズムの説明 (定量的考察2:開確率について)

前頁の話が、随分と長くなってしまいました。

外向きK電流(IKs))に拮抗する、内向きKチャネルKirを、もしも放射性セシウムが、ある一つの細胞で、Kir1個だけ、オープンの状態で壊すことができたら、IKsは相対的に低下するので、QTは延長する、という話をしました。

その続きです。以下、少々、議論に厳密性を持たすために、細かい議論に走りますが、ざっくりと理解したいかたは、次をスキップして、少し下の、<<生物学的データとのすり合わせ>>に飛んでください。


-------------細かい議論に興味のない方はスキップしてください--------------------

話を簡単にするために、とりあえず1細胞に1個チャネルを壊して、影響がでるかどうかを論じるために、
N2=1とおきました。実際には、セシウム内部被曝量から計算されるモル数、分子個数、崩壊のスピード、そして、心筋1kgに含まれる細胞数を計算すると、N2<<1の場合を想定しないといけないのは分かっているが、それは、次項にて述べることにします。

また、当然のことながら、gain-of-functionになったKirとて、数日でturnoverする。
新たな崩壊との間で、低めの、個数/細胞の割合で平衡になるだろうから、同じくN2<<1の場合の議論に含めて考える。

さらに、gain-of-functionになったKirとて、negative feedbackを受け、機能が弱まるかもしれない。かりに、downregulationに掛かる時間を数日とすれば、上記のturnoverの日数の計算範囲に掛かってきて、そのころには、また別のK-channelがセシウム崩壊の影響を受けているから、やはり、同様の桁のN2<<1の議論に含めて考えればよい。

どなたかが、突っ込んでくるだろうと思いますがら、あらかじめ言っておきますと、KvLQT1の方がオープンで壊されたら、 QT短縮するじゃないか、という可能性について。これは、多分、そんなに考えなくていい。
なぜなら、そもそもCsイオンはKvLQT1には嵌頓ないし、Csのaffinityは、格段にKirへの方が良く、Csが嵌頓するのはKirグループのKチャネルのみだから。

-----------------スキップ終わり----------------------------------------

<<生物学的データとのすり合わせ>>


さて、随分と上の方に、粗い計算ですが、KvLQT1の開確率が、p<0.002以下であれば、QTが延長する、という数式をだしました。

まあ、かなり荒い計算で、開確率は、時間、膜電位とともに変化し、一定値を取り続けるわけではないのですが(一応、IKsの場合には、phase2の最初のころはチョロチョロ、中盤以降、後半の方に、マックスになるような時間変化をすると考えられています)

はたして、実際の、KvLQT1の開確率の様子は、どうなっているのでしょうね? p<0.002でしょうか、どうでしょうか。
下記に、ある論文からの、KvLQT1の開確率の様子を引っ張ってきました。

 

イメージ 1
(他サイトからの転用・改変です)





データでは40mVからのデータとなっていますが、IKsが議論となるphase2の膜電位は、(データにもよるのですが)、この近辺からphase2のIKsの働きが始まり、0mVのちょっとしたあたりまでがphase2とすると、(他の電圧での開確率も確認中ですが)

どうでしょう。p<0.002の議論、桁として、大きく外れてはいない感じに思います。


以上、もちろん、まだデータを集め切れていない部分はありますが、QT延長の可能性は、ある程度は、定量的にめどがたってきている可能性はあると思います。



もう一度、わかりやすく書きますと、KvLQT1の開確率がp<0.002ということは、KvLQT1チャネルと言うのは、自分たちが働かなければならない時(心室心筋細胞の再分極フェーズ2)においても、チンタラチンタラ、のんびりと働いてしまうチャネルである。
p<0.002という「チンタラ度合い」は、たとえKvLQT1が5万個あったとて、たった1個の、逆向きのカリウムチャネルKirが全力で邪魔しに掛かったら、影響を受けてしまうほどの、そんなチンタラ度合いである、ということ。
つまり、たった1個の放射性セシウム崩壊とて、再分極遅延と言う形で、心筋細胞機能に影響を及ぼしうる。(ただし、ノロマな細胞にしてしまっているだけで、もちろん、細胞死を引き起こすほどではない=ここ重要)。




ただし、もちろん、上記のデータは、細胞実験でのデータであり、実際の生体内でのKvLQT1の開確率が、どういう値を取るのかは、測定してみたら、この値とはずれていました、という可能性もゼロではありません。ただ、現状での入手可能なデータからは、ごく微量のセシウム内部被曝で、QT延長という可能性がありうる範囲に、カリウムチャネルの挙動としては、収まっていると考えられます。

 

(11/2015補足):細胞がノロマになり、システムが遅延する事が、なぜ悪影響を及ぼすかということに関する補足記事をご参照ください。誤解されている方が多いので繰り返しますが、細胞死の可能性の存否を論じているわけではありません

 



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