内部被曝を考察するブログ

2年近く前に骨折をしてから中断していた自転車通勤を再開しました。良い季節ですね。皆様がご健康でおられ、良い一週間でありますように。

Bandazhevskyの心電図データと動物実験との整合性

ごく微量なセシウム内部被曝で、心電図異常、というのは、衝撃的でもあり、かつ重要なデータなので、動物実験データで確認する必要があります。私も、原発事故後に、文献検索を行い、以下の論文に行き当たりました。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18327657

Bandazhevskyが発表した論文ではなく、他の、全く関係ないGueguenという方のグループが発表している論文です。

言ってみれば、Bandazhevskyのデータを、ラットで確認しようとした論文、とも言えるかも知れません。ただ、著者の結論は、Bandazhevskyの結果とは異なる、という結果を著者は報告しています。心電図上、QT時間に変化なし、と述べられています。

このGueguenの論文の解釈を、身の回りのできる範囲で、議論していたのですが、Bandazhevskyのデータの正当性を議論する際に、特に重要かもしれないので、ここに特記させていただきたいと思います。もちろん、この著者の発表に異論を唱えるつもりではなく、この著者の発表や科学的態度はなんら間違いを犯していません。ただ、生物学の実験と言うのは、「解釈」が見る目によって、微妙にことなりうることが生じるので、議論と結果には、多少の「幅」がのこりうるものだ、というのが私の見解です。


分かりにくい書き方をしてしまいましたが、私は、Bandazhevskyの2004年の論文は、否定はされていない。もっと突っ込んで言いますと、QT延長症候群と理解して、正しいデータなのだろう、と考えています。

議論になるのは、上記のGueguenの論文のFigure-2です。
まずは、著者の結論を読む前に、自分で測定しなおしてみました。

そうそう、人間の心電図を見慣れた方には、最初、あれ?という違和感を覚えられる点かと思いますが、ラットの場合、心拍数が人間よりもかなり速い関係で、QRS波形と、T波が、くっついてしまいます。ちょっと違和感があるかもしれませんが、QT時間の測定は、人間と同じで、QRS波の起点から、T波の終点までです。

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QT時間の測定、というのは、簡単そうで、意外に難しく、基線をどこにとるか、というのに悩むこともありますし、T波の終わりがどこなのか、を迷うこともあります。上記の私の基線のとり方は、なるべく、自分に厳しく、むしろ「逆バイアス」が掛かり気味の、QT延長には若干不利な条件で基線を引いたつもりですが、それでも、基線の引き方がまだまだ自分に甘いんじゃないか、という自己批判もできますので、次に、T波の傾きの形状を考慮にいれた測定をしてみたいと思います。

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やはり、セシウム内部被曝群で、QTが延長しているように、私には見えてしまうのです。(ここでトライした傾線以上に、自分たちに不利になるような傾線を引いて見ても、やはり、何度やってもQT延長、という結論になってしまいます)。

著者の測定値に近い測定をするには、基線をどこにとればいいのでしょうか。著者の気持ちになって、やってみました。

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(以上は他サイトからの転用です。緊急重要事項ということでご理解下さい。論文著者は何も間違った行為はしていません。見る人によって、データの解釈の幅がある、ということを解説しています)

セシウム内部被曝群で、基線の位置が、かなり上の方にずれてしまいますが、コンピューターの自動解析とかに任せると、こういう基線の引き方になることもあるのでしょうか。

まあ、著者は、複数のラットを測定して平均値を出しておられるので、その結果、「QTに変化なし」と報告している点には異論は唱えることはできませんが、原発事故ということのインパクトの大きさを考えると、だれか、似たような実験を、もう一度やっておく必要はあるのではないか、と思います。


結論:Gueguenの論文 (Bandzhevskyとは別のグループの論文)に異論を挟むわけではないし、著者が科学的間違いをやっているわけではないが、QT時間に変化なし、と結論した著者の発表を、額面どおりに鵜呑みにするわけにはいかない。個人的には、Bandazhevskyのデータは否定はされておらず、あくまでも個人的な意見だが、むしろQT延長の件に関しては、再現されていた可能性も高いのではないか、と感じている。いずれにしても、さらなる実験が必要だろう。


<<2018年12月補足>>
当初、微量セシウム内部被曝による心電図変化の予想として、QT延長(または潜在的QT延長:第2相後半から第3の異常)の他に、この異常と両立しうる、別のタイプの「再分極異常」である、J波症候群(第1相から、第2の初期の異常で、ST部分の異常を伴う)が考えられる可能性を考察し、記事を準備しておりました。

2019年12月27日、記事を公開しました

何れにしても、ここで補足しておきたいのは、ラットやマウスのモデルでは、この第二の心電図異常は、心電図で確認するすべがありません。イヌ以上の大動物を使った心電図解析でないと、原理的にQRS波と(J)-STの分離が悪いためです。今後の研究や考察が待たれる分野の一つです。
<<2020年1月補足>>
Gueguenの論文と、Bandazhevskyの報告の、一見不整合に見えるデータに、血圧の問題がありますが、きちんと考えると、双方矛盾しないデータだという説明ができます。2015年に補足記事を用意しています。ご参照ください。