内部被曝を考察するブログ

2年近く前に骨折をしてから中断していた自転車通勤を再開しました。良い季節ですね。皆様がご健康でおられ、良い一週間でありますように。

附記3:フィードバックの遅れについて

2015年11月改定
(2013年初頭に書きかけて放置していた記事を、大幅に改定しました)
 
 
 
このブログの理論を、なかなか理解できない、受け入れられないとする批判に、次のようなものがあるかと思います。
 
(先入観による批判意見1):「ほんのわずかの内部被曝で、細胞が死んだりはしないし、ましてや、臓器の機能に影響なんて出るわけがない」
 
このブログは、そもそも、細胞死の存否を論じているわけではありません。細胞の機能調節の「タイミングが遅れる」ことに関して、論じています。
 
細胞が死ぬわけではない、「遅れる」だけなのだ、という主張に対しては、今度は、次のような批判もあるかもしれません。
 
(先入観による否定的意見2):「細胞の何かのタイミングが、すこしずれたり遅れたりするくらいのことが、大層なことに繋がるわけがない。そんなのはデタラメ理論だ!」(最後のデタラメ云々というのは、勝手に想像で付け加えてみました)
 
この附記で、補足説明しておきたいのは、「遅れるとうことは、場合によっては、とんでもなくまずいことだ」、という趣旨の議論です。
 
 

フィードバック制御が遅れる=安定性の余裕が無くなる、ということの意味を、日常生活の例を使いながら、解説して行ってみたいと思います。


<<フィードバックとハウリング現象>>

  
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みなさまは、カラオケ屋さんに、よく行かれますか?大きな声を出すと、ストレス解消にもってこいですよね。私、もう云十年も、カラオケに行っていませんが、学生時代には悪友たちと街中に繰り出したものでした。

昔のカラオケ屋さんに行くと、マイクがキーンという耳障りな高音を発して、「ハウリング」という現象をよく起こしていました。なぜああいう現象が起こるかというと、マイクがスピーカーからの音を拾って、また増幅にかけてしまう、という、正のフィードバックが働き、「発振」という状態が起こっているからなのですが、(日本のメーカーが得意な分野ですが)いろんなモノ作りの際には、この、正のフィードバックが掛かりにくくなるように、上手く設計されていて、この設計要求事項を、制御の「安定性余裕」と呼んでいます。

 
 
<<制御発振のメカニズム>>
すこし、古典制御理論というものを解説してみましょう。大切な理論なので、多くの理系の方はすでにご存知の事ばかりだと思うので、飛ばしてください。
 
ご存知ない方に、解説したいこと。ポイントはほんの数個だけです。フィードバック制御」「安定性余裕」と「発振(発散)」です。
 
その結果、「遅れることは悪いことだ」というのを理解していただくのが目標です。
 
さて、いきなり、カラオケ屋さんの話を出しました。これは、悪い制御の例です。ポジティブ・フィードバックがかかる状態というのは、このように、システムが発振して、破綻してしまいます。ですから、普通は、いかにそのようなことが起こらないか、ということを、エンジニアも皆、腐心します。
 
システムが安定=良いこと
システムが発振(不安定)=悪い事
(注:本当は、わざと発振させるようなシステムは、世の中のあちこちで活躍もしています)
 
 
 
<<アンプとフィードバックのこと>>
さて、少し、フィードバックの事をお話ししましょう。皆様が日常で使っているオーディオのアンプ。実は現代アンプの基礎原理が考案されたのは、たかだか1920年代後半にかけてのこと、人類の歴史的にはごく最近の話なのです。ハロルド・ブラック(Harold Black)という、電話会社の若い技師が原理を考案しました。
 
それまでも、もちろん、「増幅器」というのはあったのです。しかし、ハロルドブラック以前の増幅器は、「歪み」が大きく、安定性に欠け、品質ごとのバラツキの非常に大きなものでした。つまり、使い手が「このくらいの音量に調節したい」と思って、つまみを上げても、目的の音量にピタリと合わせることが難しいのはおろか、使っているうちに、音量は変わるわ、音は歪むわ、と、現代の感覚からすると、ひどい代物でした。
 
そんな状況を一変させたのが、若き日のハロルド・ブラック。彼の発明した、「負帰還アンプの原理」は、20世紀最大の発明、とも言われています。
 
これが、原理です。
 
 
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(注:これをブロック線図と言います。線上の左の、プラスとかマイナスのついた白丸を、「加え合わせ点」と言い、信号が足しわされることを示しています。一方、右側の小さな黒丸の分岐点は、信号を「分割」しているわけではなく、Aから出てきた信号を、フィードバックループにも、出力にも、同じ信号を入力してあげますよ、という意味です。右の白丸と左の黒丸の意味が異なることに注意)
 
ブラック以前の増幅器というのは、図の"A"の部分しかありませんでした。ブラックが気がついたのは、これに、出力信号を取り出して、負帰還(ネガティブ・フィードバック)をかけてやることにより、歪みを解消し、目的の増幅率にピタリと合わせることができる、ということでした。現代の「アンプ」と言われるものは、すべてこのブラックの負帰還原理に依っています。
 
すごいですね。
 
 
なんのことか分かりませんか?
 
車の運転を考えてみてください。皆様は、高速道路を時速100キロで走ろうとします。もしも、車のメーターを気にしないで、おしゃべりに夢中になっていたら、どうなるでしょうか?時速100キロで走ってるつもりでも、知らず知らずのうちに、スピードが出すぎてしまい、あっという間に150キロ、おしゃべりに夢中になりすぎて、違反切符を切られるかもしれません。
 
だけど、普通は、メーターを見ながら、アクセルやブレーキの微調整をしながら、あ、スピード出過ぎたな、と思えばブレーキを少し踏み、スピード遅めだなと思えば、少しアクセルを吹かしてやって、ピッタリ100キロに合わせることができます。この時の、皆さんの、メーターからの情報をもとにアクセル・ブレーキ操作をしているのが、負帰還(ネガティブ・フィードバック)です。
 
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(図の車・靴・メーターの絵はイラストわんバグ様、フリー素材集様より)
 
さて、フィードバック制御。ここまで、いいですよね。身の回りのこと、世の中のことは、全部フィードバック制御です。(もちろん、ちょっと言い過ぎです)
 
これ、一見あたりまえのことなんですが、すごいことなんです。
フィードバック(負帰還)を掛けて、制御をすることで、とても良いことが沢山出てきます。
 
1.目標への追従性(この例でははっきり言いませんでしたが、目標速度をある時、ゼロから100キロに設定しても、途中で50キロに変えても、目標に近付こうとします。)
2.外乱の影響を抑制できる(強い向かい風が吹いてきても、山あり谷ありの凸凹道でも、時速100キロをキープできる)
3.出力が制御対象(車のエンジンなど)の性能に影響されない(個々の車はエンジンのパワーに差があるけど、車によってアクセルの踏み込み方を調整することができる)
4.増幅器として使える
 
などなどです。
 
さて、1-3は簡単ですね。時速100キロを目指して普通に運転してれば、車の車種が何であろうと、どんな強風の向かい風が吹いてこようと、上り坂だろうと下り坂だろと、ピタリと100キロに合わせることができますよね(メーターからよそ見をしさえしなければ)。ただ、4番はちょっと分かりにくいかと思いますので、4番目の「増幅器として使える」という部分について解説してみましょう。
 
もしも、車のメーターに細工をして、実際のスピードの半分しか表示されないような小細工をしておいたら、どうなるでしょうか?車の運転手は、当然、「あれ?意外にスピードが出ないな。もっとアクセルを踏み込もう!」と考え、スピードは当然、倍の時速200キロに成るはずです(車の性能が持てば)
 
ということで、自由自在にメーターに小細工をすることができれば、自由自在に出力をコントロールすることができます(ただし、車の性能が無限大であれば
 
これが、負帰還による制御システムが、「増幅器である理由です。
 
 
 
少し最初のアンプの式に戻って、説明してみましょう。Aというのが、フォワード・ゲイン(車のエンジンの性能)。βはフィードバック・ゲインと呼びます(メーターへの小細工)。
 
目的の増幅率にピタリと合わせたいために、Aからの情報を、フィードバックにかけて(β倍して)、Aの入り口にマイナス分として、戻してやるわけです。このときの、増幅率(クローズド・ループ・ゲイン)は、A/(1+A・β) となります。(これ、ブロック線図を分解して書き直しても簡単な式で導出できますし、馬鹿正直に無限等比級数を作って、等比級数の公式からも出せますので、初めての人はやってみてください)
 
もしも、車の性能Aが無限大であれば、増幅率は1/βとなります。
つまり、時速200キロを出したければ、メーターの小細工を実速度の半分表示に、時速1000キロを出したければ、10分の1表示にすれば良いのです。

若き日のブラックさんは、これ(プラスあと負帰還の素敵な幾つかの利点)に気がついたわけです。
(まあもちろん、これに似た考えをしたことのある人は多いのですが、ブラックさんは、この概念を回路で実現可能なのだ、という部分までをも発明しました)
 
 
現代のアンプは、ほぼ全て、このブラックさんの負帰還原理に基づいて設計されています。アンプの制御部の増幅性能Aがある程度品質的にバラバラでも、Aがβに比べて、ある程度大きければ、増幅率は結局、1/βになるんですから!

製品の品質のバラツキが、関係なくなった



このブラックの負帰還回路が、当時の最先端のエンジニアの頭を悩ませていた、歪みやバラツキの問題を、一気に解決しました。
 
この負帰還回路、あまりにすごいことなので、実はアンプやらの設計だけではなく、生命体もなにもかも、自然界のいろんな現象が、実は負帰還の原理で出来ていることが分かっています。人間の考えることは、神様もとうの昔にお見通しだったわけですね。
 
 
さて、そんな、素晴らしい負帰還回路。しかし、負帰還をかけると、(上記のリストに挙げたように)いい面も沢山ありますが、気をつけなければならないことも、少々発生してきます。それが、「発振」という問題です。最初に述べた、カラオケ屋さんでの「ハウリング」のような問題を、発振状態と言って、負帰還制御では避けなければならないことなのです。
 
 
これを、ちょっと説明してみましょう。
 
アンプの増幅率(クローズド・ループ・ゲイン)のことは説明しました。一方、Aからβを通って戻るまでのループの増幅率(A・β)を、オープン・ループゲイン(または単にループゲイン)と言います。
 
ちょっと乱暴な言い方をしますと、この、ループゲインの特性を議論するのが、古典制御理論なのです。
 
ループゲインが、"-1"(マイナス1)のとき、これは、正のフィードバックがかかっていることになり、最初に出したカラオケの例で言えば、ハウリングという、「発振現象」が起こっている状態になります。
 
制御理論では、「発振」が起こるような条件を、「不安定」と言って、これは良くないことなので、如何に発振をするような条件をさけるか、如何に安定な制御を設計するか、ということを論じていきます。
 
古典的制御理論では、ループゲインAβが、-1に近くなるかどうかを、ひたすら議論していくだけなのです。制御理論とか、負帰還とか、安定とか不安定って、簡単な気がしませんか?(もちろん、気がするだけで、本当は奥の深い学問なんですが、、、)
 
 
ーーー余談になるので、ざっくり理解したい方は飛ばしてくださいーーー
実は、車の運転の例と、オーディオアンプの例。違うことが一つだけあります。
車の例では、入力は、「目標時速100キロ」という、一定の目標値でした。オーディオアンプでは、刻一刻と変わる、音の波(サインとかコサインとかの三角関数が重ねあわせられた波形)を入力します。ちょっと違いますよね。まあ、車の例を無理やり例えると、例えばサーキットでレースをしている時には、目標速度が100-->30-->150-->80-->10-->120と、時間とともにめまぐるしく変わるので、そういう時は、音の波を入力しているのと同じことですね。
 
実は、一定の目標値ではなく、時間的に連続した変化量を入力し、その出力を知りたい時には、上のような単純な計算ではダメで、「畳み込み積分という、複雑な計算をやらなければなりません。ああ、これで負帰還はばっちり理解した!と一瞬思ったのに、ガックリですね。でも安心してください。時間空間(実社会の時間の流れに沿った時間の関数を扱う空間)から、周波数空間(関数の周波数特性を扱うための空間)に、関数を変換するための、フーリエ変換だとか、それによく似たラプラス変換という便利な方法があるんです。こういう変換をやってやると、畳み込み積分が、掛け算に変わってくれるのです。図の A・β と書いていたあの式、あのままで良いんです。
 
この、ラプラス変換の便利なところは、ほかにも沢山あるのですが、もうひとつだけ書いておくと、「線形変換」であるということ。どういうことかというと、実空間の関数の足したり引いたりは、変換後も足したり引いたり、のままでいいんです。つまり、ブロック線図上の、足したり引いたりの分岐も、そのまま描いておけばいいんです。便利ですね。ちなみに、ブロック線図上のそれぞれの四角とか三角のブロック。これ、ラプラス変換した後の世界(s空間と言います)では、伝達関数と言います。
 
以下の説明では全部、このs空間(ラプラス変換した世界)で物事を考えていくことにします。でも安心してください。要は、ブロック線図はあのままで良いし、例え話の模式図の中で出した掛け算や、分岐部の足し算引き算も、そのままで良いと言っているだけなのです。
ーーーーーー余談おわりーーーーーーー
 
 
 
<<制御の安定性余裕のこと>>
さて。こんどはみなさん、ハウリングのキーンという不快な音は嫌なので、マイクを十分にスピーカーから離して使用することにします。
 
ですから、安心してください。ちょっとやそっとのことでは、ハウリングは起こりません。というか、普通のカラオケの楽しみ方をしていれば、もう絶対に起こりません。安心して、素敵なカラオケ・タイムを楽しんでください。
 
いまの世の中、物造りの得意な日本のメーカーの優秀なエンジニアの皆様のお陰で、ちょっとやそっとのことでは(マイクをスピーカーに近付けてわざとポジティブ・フィードバックを掛けるようないたずらをしない限り)、発振しないような、素晴らしく安定で、すばらしく音響特性の良いアンプの数々が製作されています。それもこれも、最初に述べた、ブラックさんのお陰です。ブラックさんのお陰で、現代の音響アンプもみな、設計できるようになったのですから。)
 
でも、それではこのブログでお話しすることは、なにもなくなってしまうので、せっかくなので、筆者が知恵を絞って、皆様のために、アンプを作って差し上げました。ブラックさんの負帰還原理に則って、素人ながらも、丹精を込めて一生懸命に作りました。
 
どんなアンプを作ったのか、と言いますと、こんなアンプです。「大山1号」と名付けました。
 
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(注:なんだか、どこかで見た図のような気もしますが、気にしないでください。)
 
 
私が心を込めて作成したこのアンプ、どんなアンプかを説明しますね。βというのは、この場合、ボリュームのつまみです。ブラックさんの負帰還原理では、βをいじって、出力を増幅するんでしたよね。音を10倍に大きくしたければ、βを10分の1に。隣の部屋のオジさん達から、「うるさい」といわれたら、βを大きくして、出力を控えめに。シンプルだけど、そんな素敵なアンプです。(増幅比Y/(1+β・Y)は、Yが無限大に大きければ、1/βになるんでしたよね)。
 
それでは、ちょっと詳しい話を始めましょう。このアンプ、こんな特性を持っています(ループゲインβ・Yの特性です)。
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ちょっと説明しますね。まずは、上半分のグラフを見てみましょう。ゲイン特性曲線と言います。
このアンプ、低音域(グラフの左の方)は、ゲイン特性が良いです。低音をしっかりと増幅させることができます。でも、だんだん、高音になるにつれ、アンプの増幅能が追いつかなくなり、あまり高音は、増幅できません(右肩下がりになっている)。ちょうど、周波数がG(ヘルツ)くらいのところで、増幅率が1倍(0デシベル)になっています(ここの周波数を、ゲインクロスオーバー周波数と言います)。
 
次に、下の図を見てみましょう。位相特性曲線と言います。これは、このアンプのリスポンスの早さを表しています。低音域では、このアンプはリスポンスが良く、入力からリスポンスまで、ほとんど時間差が無いです。高音域になると、さすがに、アンプのスピードが追いつかず、入力からリスポンスまでが遅れ始めます(絶対値の遅れが大きくなるわけではなく、その周波数の波長に対しての相対的なリスポンスが遅れるということ。高音域になればなるほど、波長が短くなるので、当然ですね)。位相がちょうど180度遅れる(逆相になるともいいます)ポイントを位相クロスオーバー周波数(図のP)と言います。
 
さあ、このアンプ、心を込めて作ったので、音質はまあそこそこ、かなり安定で、発振もない良いアンプです。なぜ、「発振しない」なんて、私が自信満々に言ってのけられるのか?それは、上の特性図をみれば、明らかだからです。
 
説明しませんでしたが、この図、ボード線図と言います。1930年代に、ボード(Hendrik Bode)さんという天才技術者が発明した、とても便利な図なのです。この図をみれば、制御が安定か、不安定か、一発でわかってしまうのです。
 
この図で見るポイントは2つ。青で示したゲイン余裕と、赤で示した位相余裕です。この2つの余裕が、こんなにあるから、発振しにくいのです。
 
なんのことか、分かりませんか?
では、次なる説明をさせていただきます。
 
 
 
素人ながらに作ったこのアンプ、良いアンプなのですが、ちょっと問題が生じました。ボリュームのつまみを、最大限にしても、ちょっと音量が足りないのです。これでは、カラオケの楽しみも半減です。同行した友人たちも不満顔。
 
そこで、素人ながらに、私もちょっと考えました。「ボリュームつまみをいくらひねっても音量がこれ以上、上がらないなら、設計を変えてしまおう!よし、"Y"の隣に、すこしパワーを継ぎ足そう!」 
パワーが足りないなら、継ぎ足してやればいい。( f 倍にする、ということで、「f」というユニットを接続することにします)。そんな乱暴な発想で、大山2号を作ってみました。
 
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しかし、そこはやはり、素人考えでした。"Y"の横にパワーをf倍する「f」をつけたところで、出力は変わらないはずです。なぜかというと、このシステムの増幅率はf・Y/(1+β・f・Y)であって、Yが十分に大きい時は、結局1/βになってしまうのですから(大山アンプ1号から改善していません、ガックリです)。。。しかし、そこは素人の私。まだ、そんなことには気が付きません。おかしい。良かれと思ってやった改造なのに、ワークしていないみたいだ。おかしい。
(あ、そうそう、このブロック線図とに直列に接続した新たなユニット。まあこの場合は単純にf倍だから話は楽なのですが、一般的には、実空間(実際の時間軸)では、新しいユニットを付け加えると、出力は「畳み込み積分」という難しい計算をやらなくてはならないので、大変面倒くさいのです。が、制御理論では、ラプラス空間や周波数空間で物を考えるので、この付け足しが、掛け算に早変わりしてしまうのです。便利ですね!
 
どこがおかしいか、さっぱり気がつかない私。それはさておき、ちょっと、特性曲線を見ておきましょう。特性曲線は、やはり、ループゲインをみるので、β・f・Yの特性です。実は、このボード線図が素敵なのは、「かけ算がグラフ上では足し算に変身する」ということなのです(ゲインのグラフが対数目盛になっているからです。位相はもともと足し算)。つまり、もとからのループゲインβ・Yの特性に、新しい f の特性を足してやるだけ。
 
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この新しいアンプのボード線図での特性曲線。いくつか、変化が起きてしまいました。良かれと思って、f倍ゲインをYの横にくっつけたがために、なんだか、「ゲイン余裕」と言われる部分が、かなり小さくなってしまいました。(ボード線図は足し算で考えるので、β・Yが、fに持ち上げられて、ゲイン余裕が小さくなってしまったのです)それに、ゲイン曲線が持ち上げられた分、ゲイン・クロスオーバー周波数(0dBとの交点)が、G'へと右に移動してしまいました。その結果、「位相余裕」までも小さくなってしまいました。
 
でも私は、素人なので、そんなことには気がつかず、「f倍のゲインをくっつけても、まだボリュームが上がらないみたいだから、もっと大きなゲインをつけて、パワーを足してやろう」と考え、fの代わりに、もっとパワフルなf’というユニットをYの横につけました。大山アンプ3号です。もう、友人たちへの汚名挽回に必死です。
 
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ボリュームは、当然、上がりません。新しいシステムの増幅率はf'・Y/(1+β・f'・Y)で、結局1/βのままです。

あれ?それどころか、ゲイン余裕がゼロになってしまいました。(ボード線図では足し算で考えるので、β・Yがf'でさらに持ち上げられて、ゲイン余裕がなくなってしまいました)その上、ゲイン曲線が持ち上げられた分、ゲイン・クロスオーバー周波数(0dBとの交点)が、さらにG''へと右に移動してしまいまい、P(位相クロスオーバー周波数)と一致してしまいました。その結果、「位相余裕」までもゼロになってしまいました。

そして、ハウリングが始まってしまったのでした。マイクをスピーカーに近づけていないにもかかわらず、、、、友人たちへの面目も丸つぶれです。

なぜ、発振してしまったのでしょうか?

ゲイン余裕がゼロ、ということは、アンプの周波数が追いつかなくなる帯域、位相クロスオーバー周波数P(ヘルツ)においては、180度、信号が遅れて(逆相になって)、負帰還にかかってしまう(つまり正帰還)のですが、そのフィードバックゲインが1倍(つまり、ハウリングの時のような、自己強化的なポジティブフィードバックがどんどんかかり始める限界)に達してしまった、ということなのです。
 
 
これが、制御が発振する、ということで、「不安定」ということです。
 
制御の安定性を論じたい時には、ボード線図上の、ゲイン余裕と、位相余裕の2つを見ればいいわけです。
 
制御理論って、便利ですね。これなら、アンプ作りで失敗して友人の前で恥を書くこともなさそうです。
 
ちょっとまとめてみましょう。
 
伝達関数のすごいところ:畳み込み積分が、掛け算に変身。(周波数領域やs空間で考える)
 
ボード線図のすごいところ:伝達関数の掛け算が、グラフ上では足し算に変身。
ラプラス変換は線形性を保っている。(ブロック線図の分岐部での足したり引いたりがそのまま)
ボード線図を見れば、安定か不安定か一目瞭然
 
 
(数学の理論の中では、変数変換ということをよくやるのですが、このように、いろんな変換で、いろんなメリットを享受することができます。ラプラス変換には、まだまだ沢山メリットはあるのですが、抽象的な世界の中だけで、キャッチボールを出来るのって、学問として素敵ですね。)
 
 
 
さて、制御理論の基本事項をざっと確認させていただきました。これらの議論の前提を使って、「遅れることは悪いことだ」というのを、説明していきたいと思います。
 
 
 
 
<<遅れることは悪いことだ>>
さて、上の自作アンプの失敗談。実は、まだその後の、さらなる失敗の展開が待ち受けていました。友人たちの前で、アンプの理論の基礎を理解しないで恥ずかしい思いをしてしまった私。
でも、こんどは大丈夫です。アンプの増幅率は、1/βなので、負帰還が勝負なのだ、と理解しました。Aのところをいじっても増幅率的には効果がないのだ。よし、それならば、負帰還に操作をしよう。
 
そこで、またちょっと素人考え的な発想なのですが、βの横に、新しいユニットを付け加えることにしました。
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さあ、こんどこそは、(Aが十分大きい時は)増幅率は、1/β・m だから、前のアンプに比べて、増幅率をいじることが出来たのだ!
 
と、喜んでいたのもつかの間。実は、うっかりミスをやっていた事に気がつきました。新しく付け加えたこの m というユニット。実は、あわてて改良しようと思ったものだから、部品の選別を間違えて、「無駄時間」というユニットを付け加えてしまいました。
 
つまり、m が信号をうけとると、ほんのゼロ・コンマ・ゼロゼロゼロゼロ....ゼロゼロ何秒かの、タイムラグを作ったのちに信号を吐き出す、というユニットだったのです。(実は、実際の電気回路の世界でも、そういう無駄時間ユニット的なものは結構ありまして、バッファーといわれるものにしても、ロジック回路にしても、入出力の間に、ほんのわずかなリスポンスの遅れがあるのが普通です。)
 
うっかりミスで作ってしまったこの4号アンプ。どんな特性になってしまったのでしょうか。実は便利なもので、この、無駄時間ユニットのボード線図上の特性も、バッチリと分かっています。「無駄時間要素」は、すべての周波数帯域で、単に時間を遅らせるだけなので、無駄時間要素のゲイン特性は、ゼロdBのところの横一直線です。新しい大山4号のアンプもゲイン特性曲線は変わりません(もとの特性に0dBを足すだけ)。一方、無駄時間要素の位相曲線は、位相特性が、右肩下がりに急峻にどんどん落ちていく、そんな特性をしています。
 
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さあ、伝達関数(ブロック線図上の各ブロックのこと)の掛け算は、ボード線図上では、足し算になるんでしたよね。新しいアンプの位相曲線がどうなるかを考えてみましょう。間違って付け加えてしまった、mという新たな「無駄時間」ユニット位相曲線上で、もとの特性に付け加えると、、、なんと、位相余裕が小さくなってしまいました。そればかりか、高音帯域で、どんどん位相曲線が下がったせいで、位相クロスオーバー周波数(180度のところでクロスする周波数)Pが、左に寄ってきてしまいました。ゲイン余裕は、この移動した新しい周波数P’でのゲイン余裕を見なければなりませんから、おや、ゲイン余裕も小さくなってしいました!
 
ボード線図上で、ゲイン余裕とか、位相余裕とかが小さくなると、安定性余裕が小さくなり、システムが発振するリスクが大きくなるんでしたよね。
 
 
この、4号アンプで起こってしまったことをまとめてみます。
 
フィードバックが遅れる=安定性余裕が少なくなり、発振しやすくなる。
 
つまり、「遅れることは悪いことだ」
 
 
 
 
これが、心電図上の、「QT延長」が、不整脈に至りやすいのだ、ということの、制御理論的な説明です。(あくまでも、数ある理解の仕方の一つにすぎませんが

心臓の心電図は、心室心筋の膜電位の総和を見ているものです。QT時間というのは、心室心筋の膜電位が、興奮状態から、鎮静状態にいたるまでの時間が長くなっている、ということです。
 
心室心筋の細胞膜電位は、一旦興奮状態(電位が高くなるということ)に至ったら、これを、鎮静状態に引き戻そう(電位を再び引き下げてあげよう)と、ネガティブ・フィードバックで動作しています。QT延長というのは、この、鎮静状態に至るための、フィードバックが遅れている状態です。
 
 
 
 
少し、話をまとめてみましょう。
 
このブログの理論は、ごく微量の放射性セシウムによって、細胞も死なない、臓器も激烈なダメージを受けるわけではない。ただ単に、細胞のある機能(フィードバックに関わる要素)が、遅れるだけなのだ、という理論を説明しています。心室心筋の、カリウム電流の遅れにより、再分極が、遅れるだけです。なのに、なぜ、まずいことが起こってしまうのか?
 
これを理解していただくために、この補足記事では、「遅れるということは、安定性余裕が少なくなり、発振しやすくなっている状態だ」ということを、解説させていただきました。
 
ひとつ付け加えておきたいのが、QT延長がまずい、とは言っても、普段は、心電図上、QT時間が延長しているだけなのです。それだけでなにかまずい症状が出たり、細胞が沢山死んだりしているわけではなく、たとえば不整脈(発振状態)が常に出続けているわけではないのです。典型的なQT延長症候群というのは、心電図上の異常以外は、まったくもって無症状です。(安定性余裕が少なくなっているだけです)。しかし、何かの拍子、たとえばストレスがかかったり、急激な運動をしたり、急にびっくりして心拍数が上がったりした時に、心臓が「痙攣」してしまうリスクが高くなっていることが問題なのです。
 
 
このブログでは、心室心筋の発振のことをメインに論じていますが、直列接続の電位調節により精巧な機能制御をやっている臓器は、心臓以外にも、沢山あります。神経系、骨格筋、血管、消化管、眼の水晶体、膀胱や、可能性としては造血・免疫機能までも。このような、各種臓器の機能調節の制御の安定性余裕が小さくなり、発振(言って見れば「痙攣」のような状態)に陥ったら、どんなまずいことが起こりうるのでしょうか?現段階では、あくまで可能性だけの議論でしかありませんが、後段の別途補足記事にて、各論を議論いたしました。

ほんのわずかのセシウムなんて、と侮ることなく、できる範囲で結構なので、留意をしていただきたいと思います。
 
 
<<QT延長の、制御理論的見方以外の解説。医学的理解>>
 
QT延長症候群が、なぜ不整脈に至りやすいのかに関しては、この補足記事では、ざっと感覚的な理解をしていただくために、少し大雑把な数学的説明を試みましたが、本当は現代医学的な、幾つかの、もうすこし具体的で詳細な説明方法もあります。メカニズムの詳細は現在進行形でアクティブに研究が進みつつあり、たくさんの医学解説書がありますので、ご興味のある方は、医学関係の専門書や論文レビューをご参考ください。